第53話 初体験

 ケイン王子とシルビアによる婚約の報告が無事に終り、シルビアがジュール男爵と共に宮廷を後にすると、サンドラはいつにない緊張状態で自室に戻った。

「サンドラ様は今夜、いつもは押し倒しているボクから逆に押し倒され、愛を深める事になるのです」

 そう言ったセイラ王子は笑顔だったが、眼は怖いほど真剣だった。いつもの様に、手と口だけで満足させて終りとはならないのは明らかだ。

 サンドラは、鏡の中の自分に相談する。

「どうする? 君にとっても初体験だ。譲ろうか?」

 鏡の中のサンドラは答えた。

「遠慮しとくわ。痛い事は鉄造に任せる。それに、セイラ様が一番好きなのは、悪役令嬢じゃなくて侍の方ですって。知ってるでしょ?」

「侍だろうが、悪役令嬢だろうが、サンドラはサンドラさ」

 そう答えたが、鉄造モードのサンドラは少し嬉しい。

 その時、ノックの音と共にバザルの声がした。

「サンドラ様、湯浴みの準備が整いました」

「今行くわ」

 部屋着に着替えて廊下へ出ると、ロウソクを持ったバザルが立っていた。気のせいか、表情に緊張が浮かんでいる。

「サンドラ様、本日はお疲れ様でございました。さ、どうぞお湯で疲れをお取りください」

「ありがとう、そうするわ」

 宮殿には幾つもの浴室がある。中には、巨大な大理石の塊から削りだした、豪華な浴槽もあった。

 しかし、気温も湿度も日本よりずっと低いアルフレッサ王国には、日本ほど頻繁に入浴する習慣が無い。サンドラは自室から一番近い訪問者用の離れにある浴室を愛用していたが、事実上サンドラ専用だった。前世からの風呂好きである。

 その愛用の浴室に入った瞬間、部屋中に充満した甘く、それでいて爽やかな香りにサンドラは驚いた。

 サンドラの表情を見て、バザルは説明する。

「セバスチャン様が準備なされた、入浴用の精油です。この香りを身にまとったご婦人を前にしますと、殿方はいつも以上にハッスルするとか」

「バザル……あなた、どこまで聞いてるの?」

「何も。ですが、セイラ様から、セリーヌ様がお休みになったらお知らせに行き、そのあとサンドラ様のお部屋までご案内するよう申しつかっております。それだけで十分かと」

「確かに……」

 サンドラが服を脱ぎだすと、いつもならバザルは部屋を出て行くのだが、今日は動こうとしない。

「ありがとう、バザル。もういいわよ」

「いいえ、今日はサンドラ様の全身を隈無く洗って差し上げるようにと」

「セバスチャンね」

「はい」

 サンドラは観念し、裸になるとバスタブの中に入った。前世でも好みだった熱めの湯に浸って身体を伸ばすと、大きく深呼吸する。

――身体のシンまで暖まるようだ。なるほど、この精油は温泉の様な効果もあるらしい。

 そんな事を考えていると、バザルがメイド服を脱ぎ、下着姿になっていた。

 肉感的なワガママボディに、サンドラは眼のやり場に困る。

「バザル! あなた……」

「服が濡れるといけませんので、この様な姿で失礼します」

 そう言いながら近付いて来たので、サンドラは慌てて顔を背ける。

「サンドラ様、背中を上にお向けください」

 言われるがままにバスタブの中でうつ伏せになる。バザルはバスタブの外で膝をつき、サンドラの背中を柔らかい布で優しく擦った。

「はあぁ……いい気持ち……」

 サンドラは思わず溜め息が出る。

 背中の次は左腕だ。バザルは優しく丁寧に洗う。

「ではサンドラ様、反対の腕を洗いますので、お身体を上にお向けください」

 すっかりトロケたサンドラは、黙ってバザルに従う。まさに、一日の疲れが吹き飛ぶ感じである。

「では、胸元からお腹を。敏感な所ですので、手で洗わせて頂きます」

 胸元を丁寧に撫でると、その手は乳房に降りてきた。そして、それを持ち上げるようにマッサージする。

「あ……あ……」

 えも知れぬ快感がこみ上げてきた。

「では、乳首を。失礼します」

 バザルは両手の平で円を描き、乳首だけを回転させるように洗う。

「ひゃう……アン……アン……」

 サンドラは仰け反り、女の様な声で喘ぐ。いや、身体は女なのだが。

 耐え難い快感を感じた時、バザルの手は腹部に降りた。そこを洗うと、手は更に下降を続ける。

「バザル! ソコはヤバいって。やめて……」

「なりません。ここが一番大切な所です。セイラ様がお口をつけるかもしれませんから、キレイにしていないと」

 いつもはサンドラに絶対服従のバザルが、今日は何かに取り憑かれた様に言う事を聞かない。

 そしてサンドラも、言っている事とは裏腹に、自ら両足を開いてバザルの指を受け入れた。

 一番敏感なトコロを、繊細な動きで丹念に洗われる。

「あああぁ……」

 あまりにも強烈な快感に、サンドラは波に身体を持ち上げられる様な感覚に襲われる。そして、眼の前が白くなった。

「アアッ!」

 大きな波が去った時、サンドラは大きく胸で呼吸していた。

――イッたのか? 俺は今、女の身体でイッてしまったのか?

 鉄造だった頃の身体とはケタ違いの絶頂感に、サンドラは愕然とした。

――女の身体スゲェ!

 バザルは、サンドラの反応に慌てふためいていた。

「申し訳ございません、サンドラ様。私、調子に乗ってしまって。すぐにお身体をお拭きします」

 立ち上がろうとするバザルの手首をサンドラは掴む。

「大きな声を出してすまない。その……初めてイッたもので。それよりバザル、私の口も、お前の舌で清めておくれ……」

 バザルの指でイカされた事で、それまで封じていた感情のタガが外れてしまっていた。今のサンドラは、ただの一スケベオヤジにすぎない。

「えっ……」

 バザルは少し驚くが、頬を染めて頷く。

「……サンドラ様のお望みとあらば……」

 ゆっくりと唇が重なると、バザルの舌がサンドラの口内へ入ってきた。サンドラは、夢中でバザルの舌に自分の舌を絡める。

 唇を離した時、バザルの呼吸は荒く、瞳孔は開き、すっかりソノ気になっていた。

「さあ、バザルも湯に入りなさい。お互い、洗いっこしようじゃないか」

 サンドラは、シュミーズの肩紐に手をかけてズラした。それはハラリと床に落ちる。

 バザルの神々しいばかりに美しい胸に、サンドラの眼が眩む。

「おお……」

 サンドラは両手でバザルの胸を鷲掴みにすると、荒々しく揉んだ。

「……クソッ、あのネトラセ好きの変態ジジイめ。この身体を好き放題にしているというのか!」

 まさにスケベオヤジに相応しいセリフである。

 バザルはバスタブの縁を持って、サンドラの攻めに必死で耐えた。

「アアンッ……サンドラ様、これ以上はセイラ様を裏切ることに……セバスチャン様も……アン……」

「何を今さら。それに女同士だ、ノーカンだよ」

「ハフ……女同士なら……浮気にならないのですね……ンンッ……」

「そうさ、常識さ」

 バザルも気分が高ぶり、もう一度キスしようと顔を近付けた。だが、その時……。

「ヒィーッ!」

 悲鳴を上げて後にヒックリ返ったバザルは、陸に上がった魚の様に口をパクパクと動かす。そして、バスタブの横の壁にある鏡を指差した。

 サンドラは、恐る恐ると振り返って鏡を見る。

 そこには、バスタブに横たわっている筈の自分が、スッポンポンのままで仁王立ちし、怒髪天をつく形相で見下ろしていた。

「ちょっと、鉄造! アンタ、人の身体で何やってくれているのよ! このヘンタイ侍!」



 サンドラは入浴を中断すると自室に戻り、鏡の前に正座した。そして、鏡の中の自分から説教を受ける。

「……アンタなんてね、ドトールと同じよ。バザルが逆らえないのをいい事にエッチな事して。恥を知りなさい、恥を!」

「面目ない……返す言葉もないが、あのコは俺のこと、好きなんじゃないかと……」

「はあ? 今さら何言ってるの? そんなの最初から分かってるでしょ。あのコは、アンタが抱かせろと言ったら、いつでもどこでも抱かれるでしょうよ。でもね、それをしないからアンタを信頼していた。でも無理、もうアンタなんか信用できない」

「そこまで言わなくても……」

「何ですって? フザケないでよ! 何が女同士ならノーカンよ。耳を疑ったわ。言ってて恥ずかしくなかった? それこそ腹を切りなさいよ、腹を!」

「わかった。わかったから、もう勘弁してくれ。反省しているんだ」

「……いいわ。今日はこの辺で勘弁してあげる。だけど、次にアンタがまたバザルに変なマネしたら、私、入れ替わっている間に毒を飲むから。本気よ!」

「はい! 肝に命じます!」

「そろそろセイラ様がいらっしゃるわ。いいわね、精一杯尽くして、喜んで頂くのよ」

「はい!」

 現実と鏡の中のサンドラがシンクロした。サンドラは、やれやれと立ち上がる。

 その時だ。

 ノックの音がしてドアが開き、セイラ王子が入ってきた。ゆったりとした寝間着の上にガウンを羽織っている。

 その美しく、汚れない笑顔を見た時、サンドラは一時の欲望に流され、バザルと性的な関係を持とうとした自分を激しく悔いた。

 セイラ王子を案内して来たバザルが一礼してドアを閉めようとした時、サンドラは声をかける。

「バザル。さっきはその……怖い思いをさせてごめんなさい……」

 バザルは、まだ頬が赤いままだった。

「いえ、私こそ取り乱してしまい、申し訳ございません。でも……あんなに不思議な経験、初めてでした」

 バザルは、ようやくサンドラと眼を合わせた。その眼は、バザルのサンドラへの感情が、尊敬や崇拝から恋へと変化した事を如実に物語っていた。

 厄介な事になったとサンドラは思う。バザルが本気で色仕掛けで迫って来たら、それをかわす自信はまるで無かった。

 セバスチャンがその事を知っても喜ぶだけだろう。だが、悪役令嬢のサンドラは、本当に毒を飲みかねない。

 当然、その時は侍サンドラもお陀仏だ。全ては自業自得である。

 ただ今は、廊下を戻って行くバザルを引きつった笑顔で見送るしかなかった。

「何かあったのですか?」

 セイラ王子が不思議な顔で聞いてきた。

「ええ……浴室で、鏡に映った悪役令嬢の方の私が、実際の私と違う動きをしていたのを見られてしまったのです」

「ヘエ、そんな事が。それはバザルも驚いたでしょう」

「他人には見えない筈なのですが……よほど私とバザルの精神状態が同調していたのだと思います」

 サンドラを胸の奥がチクッと痛み、それをごまかす様にセイラ王子にキスをした。

 舌を絡めながらガウンを脱がし、寝間着のボタンを外す。

 透き通る白い肌がロウソクの灯りに揺らめいていた。

 これから起きる事への期待からか、乳首が膨らんでいる。

 サンドラはたまらなくなり、セイラ王子の首筋に舌を這わせた。そして、じらすように乳首へと降りていく。

「あっ……ああっ……サンドラ様、いい香り……香りだけで勃っちゃいます」

 セイラ王子は切なげに声を漏らした。精油の効果は絶大のようだ。

 左の乳首を舌先でツツきながら、右の乳首を中指で優しくコネる。

「ハァンッ……感じちゃう」

 セイラ王子は喘ぎ、サンドラは左右の乳首を替えて攻め続ける。そして、ズボンの紐をほどいた。

 しかし、中でそそり立つモノに引っ掛かり、ズボンが脱げない。サンドラは、少々乱暴にズボンを引き下ろした。

 膝まで脱がした時、引っ掛かっていたモノが外れ、勢いよく元に戻る。ソレは腹部に衝突し、バチンと鋭い音を立てた。

「アッ……恥ずかしい」

 セイラ王子は羞恥に身を捩り、両手で前を隠す。

 サンドラはサディステックな感情に襲われ、セイラ王子の手首を握ると、力ずくで左右に開いた。

 清廉で妖精の様な容姿からは想像できない、凶暴な爬虫類を思わせる赤く腫れ上がったモノがサンドラの眼の前に現れた。そのアンバランスさに、サンドラの興奮は高まる。

 視姦するサンドラの眼差しに、セイラ王子の顔が耳まで真っ赤になった。

「ああ、サンドラ様……どうかご勘弁を」

「まあ、セイラ様。先端のお口から、こんなにだらしなくユダレを垂らして。どうして欲しいのかしら?」

「……ださい」

「え? 聞こえません?」

「舐めてください」

「はい、よく言えましたね」

 サンドラは舌先で先端の滴をすくう。

「ヒィッ!」

 セイラ王子は、電気のごとく下半身に走った快感に顔を歪めた。

 舌先は亀頭の裏の一番敏感な部分へと移動し、そこをチロチロと舐め上げる。同時に右手で二個の玉を優しくもてあそんだ。

「サンドラさま……サンドラさま……」

 セイラ王子は、サンドラの名をうわ言の様に呼び続ける。

 ピクピクと痙攣を始めたので、サンドラは亀頭を丸ごと口に含んだ。そして、頭を前後に動かす。

 いつもなら、これで呆気なく達してしまうのだが、この日のセイラ王子は違った。サンドラが口を離すまで耐え抜くと、逆にサンドラの肩を押して敷き布団の上に倒す。

「これからはボクが攻める番ですよ」

 耳元でそう囁くと、そのまま耳たぶを軽く噛んだ。

「ハアアッ……」

 全身の力が抜ける様な感覚にサンドラは喘ぐ。

――耳ってこんなに感じるんだ……。

 前世を含めて初めての経験だった。

 セイラ王子は、サンドラの胸元を開くと、ツンと尖った乳首を唇で挟み、舌先で転がすように舐める。

 身体がのた打つほどの快感だ。

「アアン! アアン!」

 意志とは裏腹に大声が出てしまう。

 眼の前が白くなりかけた頃、今度は下腹部に強烈な刺激が走った。

「アフッ!」

 バザルにイジられて敏感になっている部分に追い打ちをかけられ、サンドラはなす術も無くその日二度目の絶頂に達する。

「オオオッ……」

 朦朧とした意識の中で下半身の方を見ると、サンドラの両足の間からセイラ王子が顔を出していた。

「嬉しい。ボクの愛撫でイッてくれたのですね」

「ハァハァ……はい、サンドラはイッてしまいました……ハァハァ……」

 セイラ王子は天使の様な笑顔を浮かべると、再びサンドラの股間に顔を埋めた。

「アッ! セイラ様、どうか堪忍を。今イッたばかり……」

 だが、サンドラの言葉は聞き入れられず、セイラ王子はミルクを舐める子猫の様に、サンドラの敏感な突起を夢中で舐めた。

 サンドラは呆気無く三度目の絶頂を迎える。

 全身が弛緩し、胸で大きく呼吸するサンドラに、セイラ王子は覆い被さった。

「サンドラ様、十分に潤っています。よろしいですね?」

 少し怖じ気づいたサンドラだったが、深呼吸して覚悟を決める。

「はい、セイラ様……初めてなので、優しくお願いします」

 嘘ではない。女の身体では初めての経験だ。

 セイラ王子は、サンドラに優しくキスをする。

 サンドラは、なかなか的を捕らえられないセイラ王子の先端を掴むと、目的の場所へと導いた。

 セイラ王子は、そのままユックリと、真っ直ぐに進む。

「ツゥ!」

 サンドラの顔が苦痛に歪んだ。

「大丈夫ですか? サンドラ様」

「大丈夫……です。どうぞお続けください」

 実は全く大丈夫では無かった。

 快感も苦痛も、女の身体はなぜこうも極端なのかと思う。それにしてもセイラ様は、お顔も身体も妖精の様なのに、なぜソレだけが魔獣の様なのだ……。

 奥まで到達した時、セイラ王子は感動と快感で息が荒かった。

「ああ、サンドラ様……死ぬまで……死ぬまで一緒です」

「はい。ずっと一緒です」

 最初こそサンドラを気遣い、ユックリと腰を動かしていたセイラ王子だったが、やがて快感にあらがえず、ピストン運動は高速なものとなった。

 半眼に白眼を剥いたセイラ王子は、ユダレを垂らしながら、うわ言のようにサンドラの名を呼び続ける。

「サンドラさま……サンドラさま……」

 だが、サンドラは激痛に耐えるのが精一杯で、呼び掛けに応える言もできない。

 やがて、眼の前に星が飛び出したかと思うと、意識が遠くなっていった。



 それまで、鉄造とセイラ王子の行為を外野から客観的に眺めていた悪役令嬢だったが、突然現実に引きずり出された事に気付いた。

 下腹部に激しい痛みを感じる。

――鉄造の意気地無し、痛みに気を失ったのね!

 以前、ジュエルに聞いた事があった。もし、神のイタズラで男が妊娠したら、出産の痛みで死んでしまうとベネット医師が話していたと。

 痛みへの耐性は男より女の方があるという話なのだが、サンドラはそれを実感していた。

――これくらいの痛み、ガマンできないでどうするのよ!

 セイラ王子は、いつもの清らかな表情は消し飛び、血に飢えた獣の様にサンドラの身体を貪る。もっと激しく、もっと奥へと、突進を繰り返した。

 やがて、サンドラに痛み以外の感覚が生じてくる。奥のもう一つの入口を突き上げられる度に、身体が浮き上がる様な感覚を覚えた。

 そしてそれは、徐々に耐え難い快感へと変化していく。

「ンアアア……セイラさま! セイラさま! サンドラはもう……オウウウ……」

「サンドラ様! ボク、もうダメ……アッアッアッ」

 セイラ王子からほとばしる精は、口で受け止める時より遥かに熱く、勢いよく感じた。射精の度にソレが痙攣すると、サンドラもその痙攣に合わせて絶頂が更に高まる。

 永遠かと思える時間が過ぎ去り、全身の力が抜けたセイラ王子は、サンドラの上に重なった。二人共、大きな呼吸を繰り返す。

「最高……最高でした、サンドラ様」

「私もです、セイラ様……」

 そして、愛のこもったキスを繰り返す。

 ところがサンドラは、下腹部に再び圧迫感を感じた。抜かずにそのままでいたセイラ王子のソレが、また勃起を始めたのだ。

「ええ? ウソ」

 サンドラは悲鳴に近い声を上げる。

 セイラ王子は、はにかんだ笑顔でサンドラを見た。

「サンドラ様……あの、もう一度」

「でも私、イッたばかりで……オオオゥ……」

 セイラ王子は、サンドラの返事も聞かず、ピストン運動を再会した。

 既にサンドラに痛みは無く、ただひたすら快楽に身悶えるばかりだ。

 と、その時、セイラ王子はソレを突然引き抜いた。

「えっ?」

 この日五度目の絶頂の訪れを感じていたサンドラは、落胆に思わず声が出る。セイラ王子の股間を見るが、全く勢いを失っていない。

「体位を変えます。サンドラ様、うつ伏せになってください」

 言われた通りにすると、セイラ王子はサンドラの腰を持ち上げた。局部と肛門が顕わになる。

「イヤッ、恥ずかしい……セイラ様、ご勘弁を」

 サンドラは、あまりの恥ずかしさに、顔を枕に埋めた。

 だが、セイラ王子は、無慈悲に後からサンドラの中へと進入してくる。

「ホオッ!」

 前から挿入されるのとはまた違う、強烈な感覚だった。

 セイラ王子のストロークが、大きく早くなっていく。

「こ、こんなケモノの様な体勢で……深い……深過ぎます! セイラ様。何とぞご勘弁をッオッオッ……」

 セイラ王子は一言も発さず、ただ無言で腰をサンドラの尻に打ち付け、リズミカルにパンパンと音を鳴らし続けた。

 この国最強の剣士が、セイラ王子の攻めにあられもない四つん這いの姿で悦んでいる。この事実は、いつもは女装好きの男の娘であるセイラ王子の胸中に、男としての自信を湧かせた。

「ホラ! どうですか! どうですかサンドラ様! セイラは漢です!」

「アオゥ! お許しを……どうかお許しを……サンドラは先に……イ……クッ……」

 身体の中に熱いエネルギーのほとばしりを感じた瞬間、サンドラは眼の前が白くなり、急速に意識が薄れていった。



 意識が戻った時、ローソクは燃え尽き、部屋の中は暗かったが、窓の外は明るくなり始めていた。

 横を見るとセイラ王子が、サンドラの顔を優しく見つめながら髪を撫でている。

「セイラ様……申し訳ございません。私ばかり悦んで、十分にご奉仕できませんでした……」

「そんな事はありません。ボクもこの上ない快楽でした。初めて同士で上手くいって良かった。不安ではありませんでしたか?」

「バザルに……色々と教えてもらいましたから」

「そうですか……実はボクもセバスチャンに」

 二人は眼を合わすと笑った。

 セイラ王子は上半身を起こすと、寝間着を着始めた。

「そろそろ戻ります。ミスセリーヌが起きる前に部屋に戻らないと」

 サンドラも身体を起こし、素肌にガウンを羽織った。

「バザルを呼びますか?」

「いや、大丈夫です。少し明るくなってきましたから」

 セイラ王子が部屋を出る時、二人は強く抱き締めあった。セイラ王子の眼には涙が浮かんでいた。

「サンドラ様がフランスへ発つ前に契りを結べて良かった……本当はボク、フランスになんて行ってほしくありません。遠い外国の事なんてどうでもいい……」

「私も……セイラ様から離れたくありません。女ですから……」

「……それでも、サンドラ様は行かれるのですね。己の正義を貫く為に。心より尊敬いたします」

 セイラ王子は、事の真っ最中に侍と悪役令嬢が入れ替わった事に気付いていない。それが、今のサンドラには少し悲しかった。

 そう、意識を取り戻しても、悪役令嬢モードのままだったのだ。

 侍のサンドラを抱いたつもりでセイラ王子はいる。だが、悪役令嬢のサンドラに事実を語る勇気は無かった。

 セイラ王子が部屋を出て行った後、サンドラは鏡に映った自分に向かってつぶやく。

「……鉄造のバカ、どこに行ってしまったのよ……」

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