第27話 ジュエルの疑惑

 深い森の曲がりくねった道を抜け、橋を渡ると、色鮮やかな草花と清らかな泉が広がる庭園が視界に広がる。その後には、バロック建築の巨匠トランペッタの設計による、一〇〇〇以上の部屋を有する巨大な宮殿。

 ジュエルは溜め息をつき、馬車の前の席に座るメイドに話しかけた。

「バザル……だったかしら。あなたはこんな素敵な所で働けて幸せね」

 メイドは笑顔で答える。

「はい。皆様とてもお優しくて、本当に幸せです」

 美しい少女だが、明らかにアフリカ大陸の血が混じっている。屈託の無い笑顔の中の、眼だけが疲れた老人の様である事をジュエルは見逃さなかった。

 子爵家に生まれ、不自由の無い生活を送ってきたジュエルには想像も付かない辛酸を、この少女はなめてきたに違いない。

 これは小説のネタになる。そう直感したジュエルは言った。

「ねえ、バザル。私、あなたとお友達になりたいわ。今度、お休みが取れたら、ぜひ私の家にいらして」

 バザルは少し不思議そうな顔をして答えた。

「はい。お望みでしたら」

 馬車は宮殿本館の正面玄関前に止まる。

 バザルは、ジュエルの荷物を手にして言った。

「ジュエル様、到着致しました」

「私のような小娘が正面から出入りしていいのかしら?」

「もちろんです。サンドラ様のお客様なのですから」

 バザルは馬車のドアを開け、外へ出た。

 外には槍を持った近衛兵がズラリと並んでおり、ジュエルはその光景に臆してしまう。

 そこへ、面長のイケメンが手を差し伸べてきた。

「ジュエル様。近衛兵のクラフトでございます。本日、サンドラ様よりお部屋までのご案内を申し使っておりますので、どうぞこちらへ」

 ジュエルは少し安心して、クラフトの手に支えられながら馬車を降りる。

 足が地に降りた瞬間、近衛兵が一斉に槍の石突(刃と逆側の先端部分)を地面に打ちつけ、ガシャンという大きな音が響いた。歓迎の意を表する宮殿の慣わしであるが、驚いたジュエルは空中高く飛び上がってしまう。

 だが、クラフトは何も無かったかのように歩き続けるので、ジュエルはドレスの裾を持ち上げてその後を追った。


 ジュエルの家も子爵である。決して小さな屋敷ではない。しかし、当然だが宮殿とは比較にならない。

 ジュエルは、その建造物の巨大さに圧倒された。広い廊下一面に敷き詰められた絨毯、ロココ調で金箔をふんだんに使った壁の漆喰装飾、見上げるほど高い天井とそこから垂れ下がるボヘミアングラスのシャンデリア。どこを見ても溜め息しか出ない。

 ジュエルは、サンドラから招かれた幸運を心から感謝した。

 数日前、ジュエルはサンドラからの手紙をシルビアから受け取った。休みの日に招いた件だが、部屋が狭いので二組に分けて来て欲しい。まずは、ジュエルとシルビアが先に来て欲しい。

 手紙にはそう書いてあったが、この建物のどこが狭いというのだろう。

 ジュエルは不思議に思った。

 やがて二人は本館を抜け、渡り廊下を通って別館に入った。ジュエルが見慣れた感じの建物になる。

 階段を四階まで上がり、既に狭い廊下を延々と歩く。

 疲れを感じ始めた頃、ある部屋の前でクラフトは止まった。

「こちらでございます」

「え……?」

 その部屋のドアは、物置部屋を連想させるありふれたドアだ。第一王子の婚約者の部屋とはとても思えない。

 クラフトがドアをノックする。

「ジュエル様をお連れ致しました」

 返事も無しにサンドラがドアを開けた。

「いらっしゃい、ジュエルさん。来て頂いて嬉しいわ。クラフトも、どうもありがとう」

 サンドラの笑顔を見て、嬉しいという言葉に偽りはないとジュエルは思う。そして、その笑顔に瞬時に引き込まれる。

 頭も性格も悪いのに、なぜか太陽の様に人を引き付けてやまない人がいる。この公爵令嬢が、そういった類の人種である事は間違いない。

 しかし、落馬事故を境に、公爵令嬢の性格は変わった。慎ましく、謙虚に、それでいて迂闊に触れば切れてしまう鋭利な刃物の様な雰囲気を身にまとうようになる。

 その危険な感じが、また離れ難い魅了だった。

 温厚だった人物が、何かを切っ掛けに凶暴性をあらわにする事は時にある。また、凶悪な人物が、ある一面だけ異様な優しさを見せる事もある。

 人の行動は、一元的な解釈のみで説明できるものではない。しかし、それが度を越える時、その人物は病気だと言える。

 ジュエルは、高名な医師である婚約者に、誰とは明かさずにサンドラの最近の変貌振りを話した。そして、婚約者が導き出した仮説は、ジュエルを驚愕させるものだった。

 多重人格障害。

 ただそれは、小児期の極度のストレスや心的外傷が原因で発症する事が多いらしい。公爵という裕福な家に生まれ、甘やかされて育てられた事で知られるサンドラとは無縁の筈だ。

 現在、周囲の人々は、今日までサンドラは爪を隠す鷹であったのだと信じて疑わない。板に付いていた悪役令嬢ぶりも、実は周囲を油断させ、人々の本質を見抜く為のお芝居であったと思われている。

 だが、ジュエルは確信していた。あの頃、サンドラがジュエルたち取り巻きに漏らしていた言葉こそ本音であったと。

 両親や教師には、少しは猫を被っていただろう。本音で言いたい事を言っていたのは、見下していた私たち取り巻きに対してだけではなかったか。そうでなければ、あれ程の人種差別や人の尊厳を否定するような発言はできるものではない。

 事実はどこにあるのか、ジュエルの好奇心は膨らむ一方であり、訪問客が二組に分けられた事は、それだけサンドラとの会話量が増えるであろう歓迎すべき事態だった。

 クラフトは、サンドラとジュエルにそれぞれ一礼すると去って行った。

「ハンサムな近衛兵ですね。それに親切」

「でしょ。ああ見えて結構強いし、有能なの……」

 ――ここが違うのよ。サンドラ様は常に自分が一番で、他人をほめるような人じゃなかった。

「……そして、スケベ」

「スケベ? でございますか?」

「そうなの。女郎屋が大好き。あ、そこで靴を脱いでね。私の部屋、土禁だから」

「靴を、脱ぐのでございますか?」

「そう、靴を。脱いだら、入っていいわよ」

 室内にはシルビアは既に居た。

「ジュエル様、今日はよろしくお願い致します」

「シルビアさん……あなた、床に直接座るなんて。それに、この部屋の狭さはいったい……」

「サンドラ様のお部屋では、床に座るのがしきたりなのです」

 予想の斜め上を行く展開に、ジュエルはいぶかしながら床に座る。

 シルビアの隣には、眼が眩むほどの美少女が座っていた。貴族学園にも美少女は多いが、比較になる者がいない程の美しさだ。

「あの、そちらの方は?」

 ジュエルはシルビアに聞いたが、サンドラが答えた。

「あ、ごめんなさい。ジュエルさんは始めてよね。こちらは私の婚約者、セイラ様よ」

「第一王子の? セイラ様!」

 ジュエルは驚きで座ったまま飛び上がり、そのまま見事に直立状態で着地した。

 そういえば聞いた事があった。第一王子は並みの女性より美しい。それは比喩でなく、むしろ控え目な表現だった。

「おお!」

 セイラ王子は、ジュエルの離れ業に拍手する。

「王子様、わたくしは貴族学園でセイラ様と席を並べておりましたジュエルと申します。本日はお招きにあずかり……」

 慌ててカーテシーするが、セイラ王子はそれを止めた。

「ここでそれはいいから、早く座って」

 ジュエルは恐縮しながら床に座る。

「あの……王子様、失礼ながらお尋ね致します。なぜそのようなお召し物を?」

 セイラ王子は、いつもの丈の短い白のドレスを着ていた。

「これ? プライベートではいつもこれなの。サンドラ様が喜んでくれるから。妖精みたいだって」

 はにかむセイラ王子を見ながら、ジュエルの頭は混乱する。

 ――えっと、この方は次にこの国の王となるお方……よね。

 その様子を見ながらサンドラは言った。

「それよりセイラ様、いつまでこの部屋にいらっしゃるおつもりですか? 今から女子トークの時間なのですが」

「ええっ、だってボク……」

「だってじゃありません。殿方は出て行って頂きます。これから恋人の自慢大会をするのに、私だけその恋人がここにいては、話し辛くて盛り上がりませんから」

 渋々部屋を追い出される第一王子を見送りながら、ジュエルは益々混乱を深めていく。

 セイラ王子と入れ替わりに入ってきたのは、先程の混血のメイドだった。お茶とお菓子を運んできたのだ。

 そのメイドが甘い香りのお茶と女子がいかにも好む焼き菓子を、部屋の中央に鎮座する丸くて膝までの高さしかない小さなテーブルの上に置いていく。

 ――あら、セイラ王子は出て行かれたのに、お茶が一つ多いわ。

 そうジュエルが思った時、メイドは自らサンドラの隣にストンと座った。

「えっ?」

 思わずジュエルの口から声が出る。

 そんなジュエルにサンドラが言った。

「バザルも今日の女子会に参加するのよ。このコはまだ一六歳だけど、ちゃんと好きな人もいるし、参加資格は十分だわ」

 ジュエルは笑顔で返したが、驚いたのはもちろんそんな事ではない。人種差別の塊の様だったサンドラが、混血のメイドを隣に座らせるなど、以前なら考えられない事だからだ。男爵令嬢ではあったが、養子だからとシルビアを認めない程だったのに。

 ――やはり多重人格障害……。

 ジュエルは確信を深める。

 婚約者であるベネット医師の話では、この病気の症状の一つとして、記憶の欠損があると言う。別の人格の記憶は保持していないケースが多いらしいのだ。

 ジュエルは検証の為に、根っからの悪役令嬢だった頃の話を振ることにした。

「それにしても驚きました。サンドラ様は、絶対にケイン様狙いだと思っていましたので」

 サンドラは照れ臭そうに笑う。

「フフフ、あの頃を思い出すと、恥ずかしくて穴に入りたいわ」

「あれを覚えていらっしゃいます? ケイン様が図書室に行かれた時、珍しくブレードさんを連れていらっしゃらなかったので、サンドラ様だけを室内に入れて、私達は図書室の前で使用禁止だと言って他の皆さんを追い返したのですわ」

 サンドラの顔が真っ赤になる。

「ああ、もう止めて! 私、ケイン様に色仕掛けで迫って玉砕するのよ! もう死にそう。シルビアさんに敵う筈ないのに」

 それを聞いて、みんな笑った。

 死にそうと言う割には元気だ。記憶の欠損も無い。しかし、ジュエルの疑惑は逆に深まる。

 あのプライドの高い公爵令嬢が、自分の失敗をネタに笑いを取ろうなどする筈がない。やはりこれは、心を入れ替えたとか、他人を思いやるようになったとかいうレベルではない。落馬事故が原因で別人格と入れ替わったと見るべきだろう。

 しかし、ジュエルはこうも思った。

 ――だからといって、これを病気と言えるかしら? シルビアさんもケイン王子も、メイドのバザルも、みんな幸せになった。セイラ王子も、あの様子ではサンドラ様にゾッコンだわ。私も、苛めの片棒を担いで自己嫌悪に陥ることも無くなった……。まあ、面白いネタなので、いつか小説に使わせて頂くけど。

 その時、突然サンドラがジュエルに言った。

「ところでジュエルさん、卒業パーティーの事だけど、私もセイラ様と参加するの」

「ええ、存じ上げております」

「私、皆さんより半年早く卒業しちゃったでしょ。その半年を取り返す為に、パーティーで寸劇をやろうと思うのよ。ジュエルさんには、脚本を書いて頂けないかしら」

「寸劇ですか。それは構いませんが、どんなお話でしょう?」

「シルビアさんとケイン王子の恋路の邪魔をしようとする私の話よ」

「は……?」

「あらすじはこう。主人公は男爵家に引き取られた孤児だけど、美しくて、優しくて、何でもできて、みんなから愛されているの。第二王子も彼女に惹かれていくのよ」

 シルビアの顔が赤くなる。

「サンドラ様、盛り過ぎです……」

 サンドラは無視して話を続ける。

「そこで私の登場。『第二王子は私のものよ!』ってな感じ。ヒロインを苛めるわけ。ところがある日、悪役令嬢は授業中に落馬し、生死をさまよう。だけど、ヒロインの懸命の看病で一命を取り留めるの」

 ノンフィクションだとジュエルは思う。

「ところが、悪役令嬢は見下していたヒロインに弱いところを見られて逆ギレ、苛めは激化するわ。更に、頼みの綱のケイン王子まで、下校途中に暴れ牛に巻き込まれ、大怪我をしてしばらく学園に来れなくなってしまうの」

「あ、サンドラ様。少しお待ちください」

 ジュエルは自分の鞄から、ペンとノートを取り出した。

「申し訳ございません。続きをどうぞ」

「ケイン王子がいなくなった事で、悪役令嬢の苛めは歯止めが効かなくなる。それは、犯罪レベルにまでエスカレートするの。そして、どんなに苛めても自分の愛を貫こうとするシルビアに殺意をつのらせていくの」

「殺意?」

 ジュエルは、メモを取る手を休めずに尋ねる。

「そうよ、殺意。卒業パーティーのパートナーに選ばれなかったサンドラは、シルビア毒殺を画策する。嫉妬に狂ったサンドラに命を狙われたシルビア嬢の運命は如何に!」

「……あの、このお話を卒業パーティーでやるのですか?」

「そうよ。卒業パーティーで、卒業パーティーが舞台のお芝居をするの。おもしろいでしょ」

 ジュエルは曖昧な笑顔を見せるが、サンドラは構わずに話を続ける。

「それでね、サンドラに騙されて毒入りの飲み物に口をつけようとした、まさにその時、ケイン王子が助けに入る。そして、卒業式の参加者達の前で、ブレードが裏を取ってきたサンドラの数々の悪行を暴き、断罪するわけ。そのままサンドラは監獄行き、シルビアとケイン王子は永遠の愛を誓い、ハッピーエンドで幕よ」

「おもしろい! おもしろいですね。ですが、悪役令嬢がサンドラ様である必要はありますか?」

「あるわ。私が私の役をやるからおもしろいのよ。シルビアさんも、ケイン王子も」

「わかりました。ただ、問題が一つあります。これだけのお話になると、寸劇では済みません。一つ一つの苛めを丁寧に描いていけば、最低でも一時間は必要でしょう。だからと言ってそこで手を抜けば、サンドラ様がなぜ監獄へ連行されるのか、意味が観客に伝わりません」

「確かにそうね。貴族学園の卒業パーティーは来賓も多く、スケジュールは分刻み。寸劇に時間が頂けたとしても、一〇分が限度かしら。とても無理そうだわ」

 サンドラは腕を組んでしばらく考えた。

「そうだわ。今のお話を、ジュエルさんが小説にして頂けないかしら。それを美しく製本して、当日の出席者の皆さんに配るの」

「本に! 私の書いた小説が本になるのですか!」

「そうよ。お金の事は気にしないで。もちろん私が何とかするから」

「本に、私の小説が本に……」

 ジュエルは、降って湧いた幸運に興奮している。

「パーティーには新聞社の方も取材に来るし、文学の専門家の眼にとまるかもよ。有名作家デビューね。私の勘だけど、きっと一〇〇年後まで、そして遠く最果ての地ジパンでも読み継がれる名作になるわ」

 ジュエルは製本された自分の本を想像し、既に夢心地である。

「だけど、一つだけお願いがあるの」

「何なりと」

「作者名を、ジュエル・ベネットにしてほしいわ」

「もちろん異論はございません。ベネット先生とは一緒にパーティーに参加致しますし、卒業後すぐに式を挙げる予定です」

「ありがとう、良かったわ」

「わたくし、頑張ります! きっと良い作品に致しますわ。未来の王太子妃を悪役にする事は不安ですが、ご本人様の希望ですし、少しスキャンダルな方が大衆は喜ぶのは間違いありません」

「印刷や製本の時間を考えると、執筆の時間はあまりないけど、無理はなさらないでね。無理しなくても、必ずロングセラーになりますから」

 まるで見てきたかの様に自信満々の言葉に、ジュエルはサンドラの信頼の厚さを感じた。

「じゃあ、次はバザルの番よ。最近、セバスチャンとはどうなの?」

 ジュエルは慌てて手を挙げる。

「あの、サンドラ様、もう一つだけ!」

「はい、何でしょう?」

「本の題名は?」

 サンドラは即答した。

「『公女シルビア』よ」



 女子会は想像以上に盛り上がった。鉄造バージョンのサンドラは、自分が思っていた以上に女子化している事に驚いた。

 最近では、若い娘を演じている事自体が楽しくなっている自分に気付く。

 ――これが龍馬が言ってたホルモンの影響か。

 サンドラは思う。

「江戸で会った医者が言っておったんじゃがの、男には男のホルモン、女には女のホルモンが身体の芯から出ておるらしい。それのせいで、男はケンカっ早く、女は涙もろくなる。せやから、男は女を守らないかんのじゃ」

 フェミニストだった龍馬らしい言葉だと思う。そして、日本的な風景や物に出会うと、懐かしさに涙がこみ上げてくる自分に納得するのだった。

 ジュエルと、彼女に付き添わせたバザルを乗せた馬車を見送りながら、シルビアが言った。

「サンドラ様、想定通りになりましたか?」

「想定以上さ。ジェエルさんは『公女シルビア』をノリノリで書いてくれるよ。その本は国を越え、世界中で読まれる事になる。八〇年後にはジパンにも伝わり、坂本龍馬の眼に止まる。そして、私もそれを読む事になるという訳さ」

「八〇年後の前世、八〇年前の未来……この矛盾はどうなるのでしょう?」

「……分からない。現世の私達に、これ以上の事もできない。八〇年後の鉄造が死んだら、またサンドラに宿るのか? その時、鉄造の人格は再び覚醒するのか? そしてそれは、八〇年後と八〇前を永遠にループする事を意味するのか? 考えだすとキリが無い」

「今は今できる最善の事を、ですね」

「そうだ。フランスで革命が起きている。この国にも革命の火種がある。私は忠義の為に剣を振るうだけさ」

 シルビアがサンドラの横顔に見取れていると、後から声がした。

「義姉上。お願いですから、その凛々しい顔で、私の大切な人を禁断の恋に引き込まないでください」

 ケイン王子だ。セイラ王子も一緒にいる。

「まあ、禁断の恋だなんて」

 シルビアは、否定するどころか嬉しそうだ。

「サンドラ様はボクのものだよ。シルビアちゃんには渡さないから」

 セイラ王子はサンドラと腕を組むと、宮殿の中へと引っ張って行く。

 二人残されたシルビアとケイン王子は、顔を見合わせて笑った。

「ここは間もなく、今日の晩餐会の参加者が乗って来た馬車で一杯になる。混み合う前に私の部屋に行こう」

 ケイン王子が伸ばした左手に、シルビアは右手を乗せた。

「はい、ケイン様」

 二人はゆっくりと玄関前の階段を登った。

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