暗殺者と王都シドニス、そして【騎士の試練】。
00.「旧世代たち(前編)」
◇
――ゆらゆらと、ゆらゆらと。
そんな様子を、"一人の男"が
――ここは王宮の中に設えられた、小さな茨の花園。権謀術数が渦巻く王宮の中にあって、唯一
(そろそろ時間か……
……『国王』という身分は不便なものだ。
久々に
「国王陛下、こちらへ」
「……ああ、分かっているよ」
彼は頷くと『うさぎさんの絵が描かれたピンク色の
――束の間の安息とは
そして彼は
◇
――コツ、コツ、コツ、と巨大な空間に乾いた靴音が反響する。
まるで
白を基調とした、アーチ型の天井。壁沿いに一直線に並ぶ、巨大な柱の群れ。
荘厳な教会を思わせる、擦りガラスの高窓……。
……そして。大廊下を抜けた先に、その大講堂はあった。
――【シドアニア王国・シドニス王城】
……そこでは今まさに、"御前会議"が開かれようとしていた。
集いしは『国の重鎮』とも言える、王国を
――その中の一人ゴルギース伯爵は、恰幅の良い身体に『似合わない
ゴルギースの視線の先にあったのは――紙の資料に写る、カルネアデス王立異能学院から転送された【剣聖】リゼ・トワイライトと、他ならぬ"目の上のたんこぶ"ことトーヤ・アーモンドの顔写真。
(ぐぬぬぬぬ……あれほど儂が、班を組めないよう仕向けたというのに……! よりにもよって、この【剣聖】と手を組んだだと……! ぎいいいいっ、
ゴルギースが、ギリギリと奥歯を噛みしめる。
(だが、冷静になれ……今日は、奴に気を取られている暇などない! 久々の王の御前でもあるからな……! それに……)
ゴルギースは、煮えくり返る
そこには、『見慣れた顔』が勢ぞろいしていた。
――『近衛騎士団』九鬼・クズノハ。
――『女神教会』聖女ミレイユ。
――『勇者機関』獅子の勇者イクス・ライオネット。
――『真理学派』大賢者ノーウェン。
――『異能学院』ジル・ニトラ学院長。
――『王立議会』ルキフル議員。
――『王都商会』商業王エイブラハム。
そして――『辺境守護』ゴルギース伯爵。
……しかし、よくもまあ、胡散臭い連中が集まったものよ。
ここに集まったのは、どいつもこいつも一筋縄ではいかぬ変人揃い。儂を含め、誰一人として『真っ当な人間』は居ない。
言うなれば――"桁外れの実力"だけを頼みに、好き勝手している怪物だ。
そんな化け物どもが、
クックック……『始祖ウィル以来』とは、それ程重いという訳だ。
◇
「わざわざ俺が口を開くまでもあるまい。……俺の意志は王と共にある。ただ、それだけだ」
――そう言って口を閉ざすのは、白髪初老の武人、『九鬼・クズノハ』。
(フン、相変わらずの偏屈ジジイめが……)
それを見てゴルギースは、内心毒づく。
"御前会議"が始まるまで少しの間、8人は腹の探り合い――もとい、世間話に興じていたのだったが。
「……ええ、ええ! これが【救済の第一歩】なのですね! 嗚呼……何という素晴らしい日なのでしょう……! ……地上に
……如何せん、話が通じん。特に、この『聖女ミレイユ』がそうだ。
聖女の如き修道服に身を包んではいるが、一方的に自分の考えをまくし立てるだけで、協調性というものがまるで無い。これだから、女神教の関係者は……
――しかし癖が強いのは、この二人だけではない。
「剣聖、か。はぁ……俄かに信じがたいね。デマじゃないのか? ……なあ大賢者よ、お前はどう思う?」
「…………」
円卓の向こうでは、『獅子の勇者イクス・ライオネット』が『大賢者ノーウェン』に向かって問いを投げかけていた。
(フン……軽薄で、いけ好かない目立ちたがり屋と、潔癖症の独善主義者か……)
"獅子の毛皮"を使った豪奢な装いに身を包む、金髪の青年イクス。
そして色白を越えて蒼白な顔をした、深い紺の髪の陰険な男、ノーウェン。
まさに陰と陽。対極にある二人であったが、この8人の中では珍しく、何の因果か"友好関係"にある組み合わせだった。
「……真実は」
「真実は?」
「……相応しい者の前にのみ現れる。そしてそれは、決まって辛抱強い人間だ。……君は『待つこと』を覚えた方がいいな」
……しかし『大賢者ノーウェン』はそう言い掛けた所で、再び考え込む。
「……いや、猫科は『待て』が苦手なのか? なら私の言葉は忘れてくれ」
「……おい、今何て言った。俺のことを猫って呼んだのか?」
「気にするな。独り言だ」
「いや、許さん。誇り高き獅子を猫呼ばわりなど、女神が許しても俺が許さん」
そう、言うや否や。
『獅子の勇者勇者イクス』は『大賢者ノーウェン』に掴みかかる。
「はあ、憂鬱じゃ……なぜ儂がこのような場所に顔を出さなければならぬ……」
……そしてその隣では、学院から遠隔で参加している『ジル・ニトラ学院長』が、遠見の
取っ組み合いをする勇者と賢者の横で、"影キャ"の如く縮こまっている。
この"幼子のような外見"をしているエルフの女は、確か例の学院の長だったか。滅多に人前に姿を現さず、学院の外にも出て来ないと聞いているが……
(フム、『ダークエルフは皆孤高』らしいが……アレではただの"引きこもり陰キャ"だな)
「そうだ、こんなヤツじゃなく……ルキフル殿。君の意見を聞こう」
「ぐむむ…………!」
そして――腕の中で無言で苦しむノーウェンを後目に、イクスは正面に座る『議員ルキフル』へと問い掛けるのだった。
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