41.「――おはよう、ギブリール」
◇
そして一方、地上では――
静まり返った宿の一室に、コツコツコツと壁時計の音だけが木霊する。
――トーヤも、リゼも、そしてエレナも。
さっきまで三人でイチャイチャしていたのが嘘みたいに、すうすうと安らかな寝顔を見せていたのだった。
まるで『仲の良い兄妹』のように、仲睦まじく、寄り添うように眠っている。
……兄妹にしては着衣が乱れ過ぎている気がするが、それはともかくとして。
そんな、いたいけな寝顔で寝静まる三人の横で――
薄暗い室内に、一筋の光が降り注いだのだった。
その光は渦を巻くように、三人が眠るベッドの上に舞い降りる。
やがて光は三人に気づかれることなく、空の彼方へと消えていく……。
そして――
光が横切ったその場所に、ギブリールが横たわっていたのだった。
「むにゃむにゃ……トーヤくん……」
そしてギブリールは、トーヤたちと一緒にスヤスヤと寝息を立てる。
――グースカと気持ち良さそうに眠る、四人の少年少女たち。
そして、しばらくして。四人は朝を迎えたのだった――。
◇
――チュン、チュンチュン。
窓の外から小鳥の
カーテンの隙間からは、まるで木漏れ日のような朝日が差し込んでいた。
ふわぁ、もう、朝か……。
ガサリ。重い体を持ち上げながら、僕はゆっくりと目を開く。
倦怠感と言うのだろうか、体全体からどうしようもない怠さを感じていた。
しかし、それも当然だろう。
何しろ昨日は、あれだけ『ハッスル』してしまったのだから……。
そして僕は思わず、昨夜の事を思い出してしまっていた。
――昨夜のリゼとエレナは、とにかくスゴかったな……。
……あれは本当に、めくるめく時間だった。
『元気が出る薬』の影響のせいか、二人ともビックリするほど積極的で。正直最後の方は、二人に絞られ過ぎて、半分倒れそうになっていたような気がする……。
しかしそんなリゼとエレナも、今は僕の両隣で安らかな顔で眠っていた。
――チュン、チュンチュン。
再び、どこからともなく小鳥の鳴き声が聞こえてくる。
これが噂に聞く『朝チュン』ってヤツか……
そして僕はゆっくり体を起こすと、体を動かしてみる。
うん、どうやら薬はすっかり抜けたようだし、体の方にも異常はなさそうだ。
「すぅ……すぅ……」
そして――横に眠るリゼの隣から、何やらギブリールの声が聞こえてくる。
そこにはベッドの上で眠る、ギブリールの姿があった。
……何だか無邪気な感じがして、とても可愛いらしい寝顔だった。
そう言えば、初めてギブリールの寝顔を見た気がする。
スヤスヤと寝ている所を見るに、ひょっとしたら、"チャンネル"を繋ぎっぱなしで寝てしまったのかもしれないな……。
思えば僕は、ギブリールが背中を押してくれたお陰で、リゼとエレナと一緒になることができたのだ。
もし、ギブリールが居なければ。
きっと僕は、自分の気持ちに素直になんてなれなかっただろう。
本当に、ギブリールには感謝してもしきれないな……。
――そして僕は、ギブリールへと手を伸ばす。
霊体のギブリールには、僕の手はすり抜けてしまうと分かっていても。
ギブリールに触れたい、そう思ってしまったのだ。
(……ありがとう、ギブリール)
そして僕の指先が、スヤスヤと眠るギブリールのほっぺへと重なる……。
――ぷにっ。ぷにぷにっ。
ふと僕の指先に、柔らかい感触が訪れる。
……まさかね。今のギブリールは霊体で、本体は今頃天界にあるんだから、きっとこれは何かの錯覚だろう。うん、そうに違いない……。
そして僕は、再びギブリールの頬へと手を伸ばすのだった。
――ぷにっ、ぷにぷにっ。
――!? やっぱり、柔らかい感触がする……!
「むぐぐ……く、苦しい……」
どうやら僕は、ギブリールのほっぺをぷにぷにし過ぎたらしい。
――そしてギブリールは、ゆっくりと目を開くのだった。
……僕とギブリール、二人の目が合う。
薄暗い宿の室内、ふかふかのベッドの上で、二人は見つめ合うのだった。
「……トーヤ、くん……?」
「……おはよう、ギブリール」
僕は寝起きのギブリールに向かって、優しく声を掛ける。
やがて寝ぼけ眼でトロンとしていたギブリールの目が、キラキラと輝いていく。
そして――
「――トーヤくんっ、ホンモノのトーヤくんだぁ!」
ギブリールは嬉しそうな声を上げて、勢いよく抱きついてきたのだった……。
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