13.「仕掛けられた『謀略』――そして平和な町は、戦場へと変貌する」
薄暗い夜の町。赤茶けた
一見、『それ』は宝石のようだった。石のように硬質で、角ばっていて、子供のこぶし大ほどの大きさで、キラキラと紅く輝いていて……そしてそれは夜の闇の中、誰にも悟られないようにと、生い茂る草の間に巧妙に配置されていた。
――それは間違いなく、何者かの『悪意』によって為された所業だった。
この『宝石』たちが、この町に一体何を
無数の紅い宝石たちが、「トクン、トクン……」と胎動する。
そして――宝石たちは紅い閃光を上げたかと思うと、ピキピキと音を立てながらヒビ割れ始めたのだった。
宝石の亀裂から、薄っすらと瘴気が漏れ出てくる。
『災い』の、
◇
――そして、トーヤたちが泊まる高級宿『花の都亭』では……。
まず始めに、トーヤが真っ先に目覚めたのだった。
いつ狙われるかも知れない暗殺者特有の肌感覚――とでも言うのだろうか……眠りについていながらも、『獣の本能』で周囲の警戒だけは怠らない。
そしてトーヤの嗅覚は、空気に僅かに混じる『
このひりつくような、肌の感覚……。
――これは、
僕はベッドから跳ね起きると、壁に立て掛けてあった『武器』を手に取る。
――そして、少しして……
ふわりと風が舞ったかと思うと、
男はそのまま音も無く体を引き上げると、両の足で窓の縁に乗る。
男の顔は、まるで爬虫類のようだった。鋭く眼光は光り、抜け目のなさを感じさせる、その表情……。
男の身なりは黒装束一色。夜の闇に紛れるよう、意図的に黒に統一されている。
感情のない男の瞳が、ベッドで眠る
(クックック……無防備よの……如何に強者といえど、『寝込み』と『性交』の間だけは、赤子と変わらぬ……ククッ、あやつも、いい仕事を回してくれたわ……!)
――その風貌は、まさしく手練れの暗殺者のそれであった。
しかし彼は知らない。この部屋にはもう一人、
そして男が窓を越え、部屋の中に着地した瞬間――
『
そして少年の腕は、的確に黒ずくめの男の頸動脈を締め上げる。
(が、が、が……っ! 何故っ……! 『百錬』たるこの儂が……! 年端も行かぬ小僧に落とされるだと……!? こやつ、何、者……)
男は必死に抵抗するが、やがてカッと大きく目を見開くのだった。
男は悟る。自らの敗北を。体を動かそうにも、完全に極まってしまっている。身じろぎ一つ取れない。もはや、詰み――
(もはやこの状況、脱出は不可能……意識を失うまで、あと数秒……ならば!)
男は最期の力を振り絞って、頬を膨らませる。
体は動かせずとも、顔はまだ動かせる。口内に仕込んだ『仕込み針』――
(最期の悪足掻きじゃ――あの女の顔に、
そして男は大きく息を吹き出すと、肺活量の力だけで、仕込み針をベッドの上の少女へと投擲する。
しかし――男のその悪足掻きも、実ることはなかった。
「――『
少年が小さく呟くと、目の前のベッドを取り囲むように半透明の球体が出現する。そして男が投擲した針も、「カキン!」と弾き返されるのだった。
(何じゃと……!? 儂の必殺の『仕込み針』が……!)
男は目の前の光景に絶望すると、目を見開く。
そして――暗殺者の男は、少年の手で絞め落とされたのだった……。
「ふぅ……まずは一人」
そして僕は、静かに呟く。
ベッドから跳ね起きた後、窓の外から暗殺の気配を感じた僕は――素早くベッドの痕跡を消すと、カーテンの裏に身を隠したのだった。
窓から侵入してきた暗殺者の、背後を取るため……
とりあえず、リゼ達が無事で良かった。もし二人に何かあったら……正直、僕は冷静さを保つ自信は無い。
もしそうなったら――恐らくこの男は、『生きている事すら後悔する程の地獄』を経験する事になっていただろう……。
異能者を狙う暗殺者が、一人で来るとは思えない。そして僕は欠片の油断も見せず、窓際で男の体を荒縄で縛りながら、周囲の気配を伺う。
そして、次の瞬間――
パリン! と窓ガラスが割れる音が、隣の部屋から聞こえてくる。
そして……窓の外に見えたのは、同じく、黒装束の男の姿だった。
男はぐったりとした様子で、階下の地面へと落下していく。悲鳴は聞こえない……おそらく、即死だろう。
――これで暗殺者は、二人とも無力化できた。
しかしこれで全てが終わった訳ではない。なぜならこの町に起きた異変は、暗殺者二人ぽっちなどではないのだから……!
そして僕は、窓の外を見る。暗闇の中で蠢く影を、僕の瞳は捉えていた。
人と同じ、二足歩行をしてはいるが――しかしその姿形は、歪にして、人とは似ても似つかない異形の一言。
あれは間違いない。この街に存在してはならないモノ――魔物だ!
「大変だ! 二人とも、起きて下さいっ!」
そして僕は声を張り上げると、ベッドの上の二人を起こす。
「むぅ……なに……? トーヤくん……」
「なんだ、もう朝か……?」
リゼとレオの二人は、僕の声で目を覚ますと、ゆっくりと体を起こす。
二人は眠そうに目元を擦っていたが……縛られた黒装束の男を見ると、すぐさま表情を一変させる。
「トーヤ君、これって……」
「ええ、緊急事態です。とりあえず、窓の外を見て下さい」
「あれは……魔物じゃないか! 一体どういうことだっ!? 魔物がこれだけの数、それも町中に現れるなど……まずあり得ないっ……!」
レオは窓の外に魔物の姿を見つけると、絶句する。
そしてリゼも――窓の外を見つめながら、静かに黙りこくっていた。
「僕はこの男の『対処』をしておきます。二人は先に、スィーファさんたちの様子を見てきて下さい!」
「……分かったわ」
そして僕は、リゼとレオを見送った後――ぐったりと気絶し、縄で縛られた男を、風呂場へと運ぶのだった。
身体調査したところ、異能を示す聖痕は見当たらなかった。つまり、暗器を駆使して戦うタイプの暗殺者……ならば、こうやって猿ぐつわを噛ませて、縄で縛りさえすれば、自力で逃げ出せないハズ。
暗器の類も、全て回収した。これなら自殺も出来まい。
この男だけは、絶対に死なせるわけにはいかない。この男からは、全てが終わった後、色々聞きださなければならないのだから……。
そして僕は男を風呂場へと閉じ込めると――男が逃げ出せないよう扉の前に棚を動かし、完全封鎖する。
――よし、これだけやれば逃げられないだろう。
この男が『稀代の奇術師』だとでもいうのなら、話は別だけれど……。
そして僕は支度を終えると、リゼたちの後を追って、隣の部屋に向かったのだった……。
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