09.「高級宿の、お風呂にて――暗殺者の安息(できない)日」

 そして――浴室手前の脱衣所にて。


 そこには大きな洗面台が一つと、箪笥たんすに幾つかの木網の籠が置かれていた。

 衣類はここで脱ぎ、籠の中へ――ということなのだろう。

 そして僕たちは、服を脱ぎ始めたのだが……


 ――恥ずかし気も無く堂々としている、すっぽんぽんのリゼ。

 ――恥ずかしそうにタオルを巻いて体を隠すエレナ。


 そんな二人の間で――リゼは恥ずかしがってタオルを離さないエレナを見て、呆れたように言う。


「エレナ……タオルを巻いたままじゃ、お風呂に入れないでしょう?」

「でも……この下は裸なんだぞっ、恥ずかしいじゃないかっ……」

「どうして? もうトーヤ君には、一度見られてるのに」


 そう言って不思議そうに首を傾げるリゼに対し――エレナは『魔の森』での水浴びの事を思い出し、カッと顔を赤くするのだった。

 リゼにそそのかされたとはいえ、自分から裸体を晒してしまったのだ。

 やってしまった……。しかも、気になる男の子の前で……!

 こんな事、恥ずかしいなんてものじゃないっ……!


「とにかくっ、私はっ、このままタオルを着たまま入るから――」


 そう言いかけた、エレナだったが……


 ――バサッ!


 風を切るようなそんな音と共に、エレナの肌が露わになる。

 リゼの手で、エレナの体からタオルが引き剥がされたのだった。


「っ〜〜〜〜!」


 言葉にならない叫びを上げるエレナ。慌てて胸元を隠そうとするが……


 ――ぼいんっ! 


 ぷるぷると震える『二つの膨らみ』が、リゼの目の前に現れたのだった……。


「っ……!」


 思わぬ強敵・・の出現に、リゼは思わずたじろいでしまう。

 ――それは、まさに圧倒的な戦力差だった。

 普段のキリッとした男装姿からは想像できない、立派な乳房。そのサイズは、以前に見たあのスィーファやアンリにすら匹敵するほどで――


「…………!」


 エレナは両手で隠しているものの、かえってその大きさを強調してしまっていた。

 リゼは自分のものと、を見比べる。


 ――ぺたっ……

 ――ぼいんっ!


 その差は、一目瞭然だった。


 恥ずかし気に胸を隠そうとする、"元"男装美少女――そして、そんな彼女と胸を見比べて、見事敗北した"剣聖"の美少女――


 ――そんな全裸の美少女二人に対し、"暗殺者の少年"トーヤは若干困惑しつつも、何とか雰囲気を変えようと、努めて明るく二人に声をかける。


「……えーっと、それじゃあ二人とも、お風呂に入りましょうか!」

「……ええ、そうね」

「そっ、そうだなっ! そうしようっ!」


 僕の言葉に、リゼとエレナはそれぞれ違った声色で返事をする。

 あくまで平常心のリゼと、顔を真っ赤にして、声が上ずった様子のエレナ。


 ……しかしそれにしても、凄い光景だ。

 ある意味対照的とも言える二人だが、飛び抜けて美人であるということは、二人とも変わりない訳で。

 やがてリゼは、僕の視線に気付く。


「……トーヤ君は私の体、どう思う?」

「その……綺麗です、とても」

「……ありがとう。嬉しいわ」


 僕の言葉に、リゼは嬉しそうに小声で囁く。

 そして僕たちは、『翡翠の国』の石鹸を片手に、浴室へと向かうのだった……。



  ◇



「……早く、湯船の中に潜らないと……恥ずかしくて、死にそうだっ……!」


 後ろから聞こえる、消え入るようなエレナの声。そして――


 ――ガチャリ。


 勢いよくドアを開けると、そのまま僕たち三人は、ドアを開けた先――浴室へ。

 浴室には白い湯気がモクモクと立っている。

 白磁の浴槽になみなみと張られた、熱々のお湯……。


 ――ちゃぽん。

 リゼと僕、そしてエレナは、三人揃って浴槽に入るのだった。


 波打つ湯船。そしてザバーンと、浴槽から勢いよく溢れ出すお湯。

 体の芯から温まる、気持ちのいいお風呂だった。

 浴槽も広くてゆったり出来るし、湯加減も最高だ。


「その……気持ちのいいお風呂ですねっ!」

「あ、ああ、そうだなっ! 私もそう思うぞっ!」

「…………」


 胸元を隠すために、湯船を首までどっぷり浸かるエレナ。

 そしてそれを、リゼは複雑な表情で見つめるのだった。


(……エレナが、こんなに大きかったなんて……。男装姿で、油断してた……)

(…………)


 やがてリゼは、トーヤの方へと視線を向けるのだった。

 そんな視線を、当のトーヤは知る由もない――



 そしてしばらく、各々お湯に浸かりながら温まっていたのだが……


「……ねえ、トーヤ君」

「何ですか、リゼさん」

「……トーヤ君は『大きいおっぱい』と『小さいおっぱい』、どっちが好き?」

「……いきなり、何てこと聞くんですかっ」


 そう言って、僕は冗談めかして返事をしたのだが――しかしリゼは、真面目な顔で僕のことをジッと見つめていたのだった。

 ――何だろう……少し、嫌な予感が……。


 しかしその予感は、すぐに的中する。


 ――リゼは僕の手を掴むと、そのまま自分リゼの胸へと押し当てたのである……!


「わわっ、リゼ、君は一体何をしてるんだっ!?」


 エレナは突然の出来事に、動転した様子。

 そして僕も、リゼの行動に驚いていたのだが……しかし男の子の性というか、ついついを楽しんでしまうのだった。


 ――ぷにっ、ぷにっ。こ、これは……柔らかいっ。

 小ぶりながらも、ぷっくりとした柔らかさを感じさせるこの感触……!

 ――ドクン、ドクン……。指先で、リゼの心臓の鼓動まで感じてしまう。


「……触って。見比べて。……ねえ、トーヤ君。どっちが良い?」


 リゼはそう言って、僕の手を掴んだまま離そうとしない。

 これは……非常にマズいのではないだろうか。


「あのっ……まず、手を離してくれませんかっ? その後なら、幾らでも答えますからっ……!」

「……ダメ。答えるまで、絶対に離さないわ」


 ほ、本気だ……僕はリゼの目を見つめる。

 リゼの問いは、ただ一つだ。


 ――『大きいおっぱい』と『小さいおっぱい』、どっちが好き?


 この状況から考えて、『小さいおっぱい』とはリゼの事を言っているのだろう。

 だとすると、『大きいおっぱい』とは、エレナの事だろうか……?

 ひょっとするとリゼは、エレナの胸を見て、してしまったのかも……。


 ――考えろ、考えるんだ……! こういう時、どうすれば良い……!?


 ……適当に言い繕うのだけは、絶対にやっちゃ駄目だ。リゼは真剣に、僕の答えを待っているのだから……!


「……少し、考えますっ……」


 そしてそう宣言すると、僕は静かに考える。

 ――とにかく、真剣に答えよう。生半可な答えじゃ、リゼには通用しない。

 そして僕は、完全に『検証モード』へ移行すると、ギリギリまで吟味する。

 リゼが納得する答えを出す為に……!


「その……後ろに回っても良いかな?」

「んっ……」


 どうやら許可が貰えたようなので、僕はリゼの後ろに回ると――抱きしめるような形でを確かめる。

 ――全ては、納得のいく答えを出す為に……!


 そして僕は、結論を出す。

 結論。リゼの体は、凄く気持ち良かった。でも――これだけだと、答えを出すにはまだ不十分だ。リゼの問いに『完全に』答える為には……!


 ……そして、僕は言うのだった。


「……これは、『大きい方』も触らないと分からないかも……」

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