23.「森のキャンプでBBQ。そしてリゼの、壮絶な勘違い?」

 そしてトーヤとレオの二人は、リゼと共にキャンプの中へと入って行く。


 夜を越すための白い布テントが二つ、獣避け兼、調理のための篝火かがりびと調理鍋――そして、馬車から運んできた簡易的な組み立て机の上には、ユリティアさんの作った手料理がずらりと並んでいた。


「……むっ、この香ばしい匂い……何だか急に、お腹が空いて来たな……」


 漂ってくる美味しそうな匂いに、レオが思わず呟く。

 確かに……食欲を刺激するような、美味しそうな匂いだった。

 そういえば今日は沢山魔物と戦ったせいもあって、すっかりお腹はペコペコだ。


 そして、リゼはと言えば……いつの間にか僕の隣で大きな肉串を片手に、美味しそうにもぐもぐしていたのだった。


「へえ、それ、ユリティアさんが作ってくれたんだ?」

「……ん。そうね。結構美味しいわ。トーヤ君も食べる?」

「え、うん、ありがとう。それじゃあ頂こうかな。……ホントだ、美味しい」


 リゼの差し出した食べかけの肉串を受け取ると、僕はお肉にかぶりつく。

 確かに、これは美味しい……これは、野鳥の肉だろうか。しかもこれは、かなり絶妙な焼き加減だ。外の皮がパリッとしていて、中はジューシーで……

 そしてそんな風に肉串にかぶりつく僕を、エレナは「むぅ……」と何とも言えない表情で見つめていた。

 しかしそんな所に、メイドのユリティアさんが出迎えにやって来る。


 僕たちの姿を認めると、ユリティアさんはペコリと一礼して、言うのだった。


「……あら、トーヤ様とレオ様も戻っていらっしゃったんですね。それでは、こちらに料理を用意させて頂きました。お二方も、是非お召し上がり下さいませ♪ ちなみに食材は、現地調達となっております♪」


 そう言ってメイドのユリティアさんが、僕たちに料理を促す。

 そして目の前には、いかにも美味しそうな料理が並んでいた。

 ……これが全て、現地調達……? 量も驚きだが、さらに驚くべきはそのスピードだ。僕たちが水浴びに行ってから、帰ってくるまでの間に、これだけの仕事をこなすなんて……どれだけ『出来る』メイドなんだ……!?


 そして僕たちは、テーブルにつくと、料理にありつく。

 空は夕日の赤色に染まり、ざわざわとした風の音と、パチパチとかがり火の音が微かに聞こえてくるのだった……。



  ◇



 そしてトーヤたちは、キャンプの火を囲みながら、料理に舌鼓を打つのだった。

 スィーファとアンリは、既にユリティアの料理を何度か食べているようで、


「はぁ……相変わらず美味いわぁ。あーあ、これで、たまの怖い所さえ無くなれば、最高なんやけどなぁ……」


 と、スィーファはため息をつくと、ぼやくように呟く。

 未だにユリティアから声を掛けられる度、ビクッとしてしまうスィーファだった。


 そしてレオはと言えば、リゼと共に、トーヤにひっつくように座ると、三人で一緒に料理を食べ比べていたのだが……


「こう見ると、三人とも普通の子なんやなぁ……これが魔物相手に無双するんやから、不思議やわ……」


 そしてスィーファは、じっくりと三人に視線を向ける。

 特に二人の美少年……トーヤとレオが一際目を引いていた。

 男の子同士・・・・・だと言うのに、距離感がかなり近い。そして楽しそうにする二人の姿を見て、スィーファはうっとりした様子で呟く。


「……しかしええなぁ、美少年が二人、じゃれつく姿……! トーヤんもレオっちも最高に可愛いし……ぐふふ、まさに眼福やわぁ……」


 実はレオがエレナで、男装の美少女だと言うことは知る由もなく――スィーファは二人が絡む度に、黄色い声を上げるのだった。


 そしてリゼもトーヤの隣で、レオと二人、トーヤを挟むように座っていたが……トーヤとレオのやり取りを横目で見ながら、大人しく料理を口に運ぶ。

 どうやらエレナも、トーヤと打ち解けれたみたいで……エレナが喜んでくれて、リゼは自分のことのように嬉しかった。


 今までリゼは、【剣聖】という異能の因果に縛られ続けて生きてきた。だから、誰も巻き込ませまいと……人を避け、友達を作らずに生きてきたのだ。

 そんな中に出来た、初めての同性の友達……リゼにとって、エレナはかけがえの無い友達だったのである。


 そしてリゼが、エレナの様子を微笑ましそうに眺めていた、その時――


『……あー、聞こえてますー? 私です、女神です。……あのー、リーゼロッテ? 聞こえてますよね? もう、無視しないでくださいっ、リゼさーんっ』


 リゼの耳にどこからともなく、聞き覚えのある女神声が聞こえて来たのだった。

 しばらくスルーを決め込んでいたリゼだったが、ずっとアピールを続ける女神さまに、仕方なく声を返すのだった。


(……はぁ……厄介女神さまが、突然、なに?)

『むぅ、私は厄介女神なんかじゃありませんよー。……でも、相変わらずのスルーっぷりで安心しました』

(そう? だったら、いつまでもスルーするけど)

『あはは……それだけは、本当にやめて下さいっ。これ以上スルーされると、私も心が折れちゃうので……』

(……冗談よ。それで、何か用?)


 リゼは女神さまの霊体に目を向けると、念話で訊ねる。

 すると女神さまは、満開の笑顔で言うのだった。


『えへへー、そうですねー、今日はあなたの様子を見に来ただけ、なんですけどー……でも、安心しましたっ。もうリゼさんは、一人ぼっちじゃないんですねー。ふふっ、きちんと絆を紡げているようで、私も一安心ですっ』

(…………)

『でも、人の応援も良いですけど、ちゃーんと自分のアピールもしなきゃダメですよ? ……ほら、トーヤくんもエレナさんとイチャイチャしてますし……このままじゃ、取られちゃうかも〜?』

(……その心配は要らないわ。だって、トーヤくんは勇者になるんだから)

『……? どういうことですか?』


 リゼの言葉に、女神さまは首を傾げる。しかしそんな女神さまに、リゼは追い討ちをかけるように言う。


(……だって、勇者って、『ハーレム』を作るものなんでしょう?)


 そう言って、リゼは懐から一冊の本を取りだすのだった。


(……この本に、そう書いてあったわ。ハーレム……確か、沢山の女の子と仲良くなることよね? トーヤ君が勇者になるなら……私はトーヤ君を、応援したいから……)

『ん? ……んんっ?』


 リゼの言葉に、女神さまは困惑する。

 そして女神さまは、不思議な力で本を受け取ると、パラパラと捲り始める。

 そして――そこに書いてある内容に、目を見開くのだった。


 もしかして、ウィルヘルミナが男の子になってる――!?

 しかも、いっぱい女の子を侍らせてるし……! ……あ、それは事実か。


 ――実はこの本、ちまたに流通している『勇者物語』モノのうち、一番ぶっ飛んだ内容の……いわゆる『いわくつき』作品だったのである!


 勇者に詳しくないリゼが、勇者というものを勉強するために手に取った、この本であるが――実はこの作品、『作者の独自解釈』という名の滅茶苦茶が横行した、『トンデモ本』だったのだ――。


 登場人物の性別が入れ替わっている、なんて言うのは当たり前。

 本来なら勇者を庇って死んでいたハズの登場人物も、さらっと生きて一緒に冒険を続けていたり……すべてを知っている女神さまからしたら、とにかく噴飯ものの内容が垂れ流されていた。


 しかしこの、主人公の『勇者ウィル』が世界を救いながら、各地で女の子を惚れさせて回る、異色の『勇者ハーレム譚』であるが――

 偽典でありながら主に男性読者に売れに売れ、今では「むしろ正典よりも知名度が高いのでは?」とすら言われる始末だった。


 そして女神さまは、しばらく内容を流し読みしていたが……やがて納得したように、本を閉じて呟く。


『うーん、地上では、こういう風に歴史が伝わっていたんですねー。でも……この本だと、あの時一番可哀相だった『背徳の魔女』が報われてるみたいだし……もしかしたら、これで良いのかも……』


 それに、確かに……ハーレムというのも、『みんなを幸せにしたい』ウィルヘルミナらしいと、言えなくもない、のかなぁ……?

 自信満々なリゼと、色々と引っかかる事がありながらも、うんうんと強引に納得する女神さま。


 かくして勇者を巡る、リゼの壮絶な勘違いが、女神さま公認となったのだが。

 ――しかし、そんなやり取りがあったことも、トーヤは知る由もなく。


 今ここに、暗殺者の少年、トーヤ・アーモンドを巡る……

 勘違いから始まる、『勇者ハーレム譚(?)』が幕を開けたのであった――

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