インタールード ~クロの章~
??.「偉大なる魔の王の転生《リインカネーション》」
……少し……疲れたな……。
――玉座の上に座るのは、歳若き孤高の王。
それは、何度目の生であったか。幾度もの転生を繰り返し、玉座の上から影の世界に君臨するも……その最期は、あっけないものだった。
王は小柄な体で玉座にぐったりと腰かけ、その魂の灯火は、玉座の上で今にも消えようとしていた。
……これが、魂の劣化、か。
……避けられぬ死が目の前に迫っているというのに、余の心は何も感じられぬ。
転生を繰り返す度、一度の生が短くなっていく。
そして――今生に至っては、齢十歳にして、こと切れるとは……。
王は確信していた。次の生が訪れることは無いだろう、と。
魂が無ければ、肉体はただの肉塊に過ぎぬ。
間も無くして、余の存在はこの地上から消え失せるであろう……。
しかし余が死にゆくというのに、看取る者が居ないとは……ふっ、相変わらず、不孝者の集まりだな……。
……どうやら、お迎えが来たようだ……。
そしてゆっくりと、瞼が閉じてゆく……。
……
…………
……………………。
そして、時を同じくして……。
遠く離れた人間の地にて、一人の少年が息絶えようとしていた――。
* * * * * *
俺はあんな化け物が出るなんて、思ってなかったんだ。
それに
俺はどんな相手だろうと、負けたりしないって、信じてた。
けど――
嗚呼、俺、死ぬんだな……。
シャロン・レイヴンハートは焼けるような痛みの中で、ゆっくりと意識を手放すのだった。
――俺は、もう無理だ……。だから、お前だけは、生き延びてくれ……。
――トーヤ……。
そしてシャロンの意識は、深い深海の底へ、沈み込んでゆく……。
◇
――暗い。寒い。
これが、死、か……。
上も、下も、分からない。
ただ深く、落ちてゆく感覚だけが、そこにはあった……。
この感覚がなくなった時、俺という存在が消えるのだろう。
自分が死ぬなんて、ほんの数十分前の自分は、思いもしなかったのにな……
トーヤは、無事に逃げられただろうか……。アイツには、兄弟がいる。守らなきゃいけない物があるんだ。
……俺は違う。小さい頃から、ずっと一人だった。だから……
――死ぬのは、俺一人でいい。
『ほう、余の他に、死人がいるとは……。その黒髪……貴様、混じ者だな?』
声……? それに、混じ者……?
ずいぶんと、落ち着いた声だった。聞いているこっちまで、心が落ち着いてくるような……
俺と同年代の、男か、女か……とにかく、自分以外の存在が、ここにいる。シャロンは、包まれるような安心感を感じていた。
自分も声を出そうとするが……しかし、『ガハッ……ガハッ……!』声にならない声が漏れ出てくるだけ。
情けない……声も返せないなんて。
しかしまた、何処からか、その声が聞こえてくる。
『なるほど……お主は、友の為に自ら死を選んだというのだな』
その声はなぜか、自分の死に際のことを見てきたように話す。
しかし――何故俺のことが分かるのか……シャロンは、疑問には思わなかった。
分かって当然だ……だって、この人は――。
『余はそちの死に様に、敬意を表そう。しかし……シャロンよ、そちも辛かったろう。人と魔人の混じ者に生まれて、人の国で暮らすのは……全て、余の力が至らなかった故……余の責任だ』
その声は哀しそうな声で、俺に謝る。
けど……俺は、首を横に振った。
確かに辛いことばかりだったけど、こんな俺にだって、生きていて良かったと思える瞬間があった。
そして何より――夢を語り合える仲間がいた――!
その様子を視た声の主は、何やら声を震わせる。
『お主……絶望してはおらぬのだな……! そちの魂……そうか……!』
声の主は、何やら考え込んでいたが……やがて、俺に尋ねる。
『一つ問おう。シャロン・レイヴンハートよ。そちは、まだ生きていたいか?』
――――!?
生きて、いたいか……?
そんなの愚問だ。そして俺は、答えようとする。
『ガハッ……! ゴボゴボゴボゴボ……』
声が、出ない。
けれども……俺はジッと、目の前の光を見つめ続ける。
意思を伝える為に……。
――生きたい。生きたい。俺だって、生きていたい……!
――まだ俺は、
『ならば、お主には、
そして訪れる、急浮上する感覚。
『そちならば、あるいは……! 永きに渡る因縁、その輪廻を断ち切れるやも知れぬ……! 頼んだぞ、シャロン・レイヴンハートよ……!』
そして――二つの魂が交差する。
その瞬間、シャロンは、もう一つの人生を追体験していた。
それは幾度もの生を繰り返し、自らの運命に抗おうとした王の記憶だった。
目まぐるしく切り替わる季節――そして、繰り返される、生と死……。
――そして訪れる、覚醒の時。
ゆっくりと目を開けると、そこはシャロンの人生では見たこともない、立派な椅子の上……。
かくしてシャロン・レイヴンハートは、魔王として転生したのだった――
インタールード『クロの章』
To be continued ……
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