第691話 バスガイド
私はバスガイドを勤めています。と言っても、まだ入社2年目の新人ですが、もう何度かはお客さんを連れてガイドをしたことがあります
ある山道での事です。山道という事で狭く、車が2台通るのがやっとという幅しかありません
ホテルはその頂上付近にあり、山と言っても標高300メートルも無いでしょう
バスの中には十数人のお客さんが乗っています
「おかしいな。全然進まないぞ。事故でもあったか?」
運転手さんがそう言っていたので、後ろを向くとずらっと車が並んでいます。頂上付近にはホテルのほかにお土産屋や、観光場所などもあるため車通りは結構あるみたいです
十数分待ったけれど、全く進みません
「僕、トイレしたい」
小学生くらいの子供がそう言ったので、運転手は前のドアを開けました。男の子は、そこを父親と一緒に出ていきます
「他にトイレがしたい人はどうぞ。まだ動きそうにありませんので」
辺りは木々に覆われていて、数十メートルも入ればどこからも見えなくなりそうです
何人かの男性客は、連れ立ってトイレをしに降りていきました。私はそのお客さんの数を数えます。しばらくすると、全員戻ってきました
女性はやはり、野外でするのは嫌なのか、バスを降りる様子はありません
そして、さらに十数分経ちましたが、やはり事故だったのか、前の方の車は動きません
最悪な事に、私もトイレをしたくなってきました。あとどれだけ我慢すればバスが動くのか分からないと考えると、なおさらトイレに行きたくなります。漏らすわけには行きません
「すみません、トイレに行きたいのですが……」
運転手にそう言うと、嫌な顔をされました。明らかに、バスガイドがバスを離れるなよと思っている顔です。しかし、背に腹は代えられません……
私はバスを降り、少し奥の方へ行きます。すぐ近くでは、バスから見えそうですし、他の車からもトイレなのか、山へと入る人が見えます
そして、トイレを済ませ、さあバスへ戻ろうとしたときの事です
右手のほうで、何かが動く気配がしました。そして、ザシュッと何かを刺す音がしました
ザシュッ、ザシュッと何回も繰り返す音が
そっと木の陰から覗くと、誰かが地面に向かって刃物を振り下ろしています
ザシュッ、ザシュッとさらに何回か音がしたとき、私はヤバイと思ってその場を離れる事にしました
バスに戻った時、私は今見たことを運転手に話そうと思い、ふともう一度山の方を見たとき、木の間からこちらを見つめる男が見えました
木の影で、顔は見えませんが、間違いなく私を見ていると感じました。そして、口をパクパクと動かしますが、当然聞こえません
私は恐怖を感じて、運転手に話すのを止めました
しばらくして、レッカー車が対向車線を走り、事故車を回収していったことで頂上へと向かう事ができました
ホテルの窓から外を見ると、どこからかあの男がこっちを見ている気がして、カーテンを閉めました
夜寝るとき、あの男の口の動きを真似てみました
はなしたらしぬ
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