第97話 小説風
1年前に買ったばかりの茶色のカーテンを開け、部屋に一つしかない小さな窓から空を見上げる。今日はまるで狼男が出てきそうな満月の夜だった。私は、ゲーミングチェアに座ると、徐に小説を読みだした。
何時間経っただろうか、部屋に涼しい風が入り込んでくる。開けた覚えのない窓が、少し開いているきがして、再びカーテンを開けた。窓は閉まっていたが、そもそもいつ私はカーテンを閉めたのだろうか?閉めた覚えのないカーテンを開けた私は、今度こそ自分でカーテンを閉めようと手を伸ばす。
その時、部屋をノックする音が聞こえたため、カーテンに伸ばしていた手を止めた。ノックした主からは何の声掛けも得られなかった。沈黙に耐えられなくなった私は、部屋の外にいる誰かに声をかける。
「誰だい?」
私が何故ノックされているのにドアを開けないかと言うと、私は一人暮らしだからである。私の部屋をノックできるような人物を私は知らなかったからだ。私は、防犯のためにいつも置いてあるバットを右手に持ち、ゆっくりと扉に近づいた。私の方からノックをしてみるが、相手からの返事は得られなかった。私は再び声を掛けてみることにした。
「誰だい?」
やはり、思っていた通り誰の返事も得られない。私は、恐る恐るドアを開けてみることにした。この家は両親が残した家ではあるが、建ててからまだ10年と経っていない。ドアを開ける時も音を立てることが無かった。ゆっくりと開いたドアは180度開き、部屋の前を鮮明に見ることができた。しかし、そこには何者の姿も見ることが出来なかった。
私は、部屋から顔だけを出して見渡すが、誰の姿もない。聞き耳を立てても、足音も無い。家鳴りが少し聞こえただろうか? 私は、一旦部屋に戻ることにした。なぜなら、万が一空き巣狙いであった場合、むやみに追いかけるのは愚策だからである。
部屋に戻ると、窓から青白い手が見えた。その手は、最初は第一関節だけだったのだが、ゆっくりと第二関節まで見えるようになってきた。五指全てが見えるようになると、なぜか窓の鍵がはずれ、ゆっくりと窓が開いていく。私は、持っていたバットを左手に持ち替え、右手を服の裾で拭う。バットをしっかりと両手で握りなおすと、声を掛けてみることにした。
「誰だい?」
お気づきだろうか、私は「誰だい?」しか話していないことを。また、私が最初に窓から月を見てから5分と経っていないことを。そろそろ、賢明な読者はお気づきだろうが、回りくどさが小説である。普段長々と説明しない私がこれだけの地の文を書いた理由は、手抜きだと思われない為である。そして、気を抜いている貴方のすぐ後ろに、手首だけが浮いていることに気づいているだろうか?
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