第150話 1日目?-5

そう思っていると、2体目の分裂体が戻ってきていた。2階を担当していた分裂体だろうか? しゃべる機能を省いたため、言葉でのコミュニケーションは取れないが別に問題は無いだろう。目的はあくまで経験値の獲得なのだから。




ヤ「じーっ。」




俺が分裂体に近づくと、弥生が「じーっ」と口に出してアピールする。何となく言いたいことは分かるが、一応確認しておくべきだろうか。




レ「ど、どうしたんだ弥生?」


ヤ「源さんだけずるいです。」




やっぱりか。俺だけ一気にステータスが増えたから、嫉妬しているのだろう。俺だってもしRPGで中ボスに勝てなくて作業に近いレベル上げを強制される場面で、放置でレベルが上げられると言われたら、喜んでそちらを選ぶだろう。誰も繰り返し作業、それも脳死で行えるものをやりたいとは思わないだろう。




レ「弥生は変化することで、もう神クラスのステータスに成れるじゃないか。ステータスを上げる意味はそんなに無いだろ?」


ヤ「源さんだけずるいです。」


レ「いや、だから……。」


ヤ「源さんだけずるいです。」




やばい、弥生が初期の頃のRPGの村人並みに同じ言葉しか発しなくなった。「はい」と「いいえ」があるのに、「はい」を選ばないと永遠に進めなくなる選択肢の様だ。




ヤ「源さんだけずるいです。」


ヤ「源さんだけずるいです。」




とうとう、相槌を打たなくても繰り返すようになった。壊れたレコーダーか? と思っているうちに弥生の目がうるうるとうるみ、泣き出しそうになってきた。




レ「わ、わかったから泣くな! ほら、この分裂体の経験値はやるから」


ヤ「本当ですか? ありがとうございます!」




泣きそうだった顔が、パァッと明るくなる。別にウソ泣きでは無いだろうが、この変わりようは一種の変化レベルでは無いだろうか。弥生はさっそく無抵抗の分裂体にクナイを投げた。クリティカル発生、分裂体に14640ダメージ。分裂体はコアになった。


分裂体の強さは分からないが、分裂体を1発で倒せる強さの弥生がこれ以上強くなる意味はあるのだろうか……。




ヤ「わぁ、すっごくステータスがあがりました! 本当にありがとうございます!」




弥生はとろけるような笑顔でそう言った。あれ、あいつもしかして2階層担当じゃないやつだったのか?




形無弥生:HP5092、MP9030、攻撃力3800+1140、防御力900、素早さ2500+2250、魔力1300、スキル:変化、投擲術(10)、空間魔法(8)、HP自動回復(中)、MP自動自動回復(大)、攻撃補正(中)、透明化、装備:スラクナイ・攻撃力250、スラ手裏剣・攻撃力250、スラマフラー・防御力250、忍者服・防御力5




ヤ「空間魔法が8になりました。また、HP自動回復と攻撃補正っていうスキルが増えました!」


レ「それは俺が欲しかった!」




俺はガクリと膝をつく。勢いで「いいよ」と言った手前、いまさら返してと言えないし、言ったとしても返せるものではないし。それに、俺よりも随分と経験値が多かったようで、総合ステータスでは一気に引き離された。俺がみんなの強さに追いつくための方法だったのに……。俺はそのまま膝を抱えて座ると、地面に「の」の字を書く。




ヤ「あっ、だ、大丈夫ですよ! まだまだ分裂体は残っているでしょうし、あとは全部あげますから。」


レ「元からそのつもりだ!」




俺がいじけていたので慰めようとした弥生のボケに、つい突っ込んでしまい立ち直った。弥生が得たスキルから、あいつは5階担当だったのだろうとあたりを付ける。おそらく、倒してステータスを上げてを繰り返すので、階層クリアまでの時間差はそんなに無いのかもしれない。こういうやり取りをしている間も、アヌビスとイルナはゲームで遊んでいるので会話に参加して来ない、というか、そもそも会話が聞こえてないだろうな。


そう思っていると、エレベーターの方から緑のでかいスライムが近づいてくる。




レ「あれは、今度こそ2階を担当していた分裂体か? でも、スライム型の分裂体なんて作ったか?」


ヤ「そんなわけないじゃないですか! あれはヒュージスライムです!」


レ「へぇ、あんなでかいヒュージスライムもいるんだな。でも、モンスターって階層を出たら消滅するんじゃなかったか?」


ヤ「そのはずなんですけど……鑑定!」




ジャイアントキングスライム(変異体):HP40000、MP10000、攻撃力4000、防御力3500、素早さ600、魔力1200、スキル:分裂、HP自動回復(中)、MP自動回復(中)、飛行、火魔法(5)、風魔法(5)、木魔法(5)、物理カット(99)、魔法カット(99)




レ「ジャイアントキングスライム? そんな奴居たか?」


ヤ「変異体って書いてありますし……あっ、もしかして!」


レ「もしかしてなんだよ?」


ヤ「分裂体を逆に倒しちゃった奴が居るんじゃないですか?」


レ「それこそありえんだろ。分裂体は余裕をもってその階層を倒せるくらいの強さにしてあるし。最初に出会ったのがヌシならわかるけど、あいつらはエレベーター付近にしか居ないはずだし、そもそも2階はミスリルスライムだろ?」


ヤ「源さん、ドッペルスライムの存在を忘れていませんか? たとえば、ドッペルスライムが分裂体を倒してしまって、変化の解けたドッペルスライムを何らかの形でヒュージスライムが倒してしまって進化したとか。」


レ「そんなシステムあるのか? と言いたいが、実際に目の前に存在する以上、いま議論しても無駄だな、くるぞ!」




恐らく、それだけであのステータスに成るわけが無いので、他の階層の分裂体も倒したのだろう。




レ「とりあえず、くらえ!」




俺はスライムの表面に刀で切り裂く。ジャイアントキングスライムに0ダメージ。




レ「だめだ! 俺の攻撃力じゃダメージを与えられない! クリティカルを狙おうにも、スライムの弱点は中心のコアだけだから、俺には届かん!」


ヤ「じゃあ、私に任せてください! 投擲武器操作! 貫通!」




弥生がクナイを投げると、俺の刀をはじいたゼリー状の体をどんどん貫通し、コアに刺さる。クリティカル発生、ダメージカット、ジャイアントキングスライムに116ダメージ。




ヤ「えー! そんな!」




ダメージカット、ミスリルスライムが持ってたスキルだな。雑魚ならともかく、強いモンスターが持つとやっかいすぎる。


そして、スライムから反撃が来る。スライムの体表に多数の火の玉と風の刃が発生し、足元から木の根が針山の様に突き出てくる。




レ「ぎゃーっ、あっちぃ! 痛てぇ!」


ヤ「え? 熱くないですよね? それに痛みもありませんよね?」


レ「ああ、そうだったな。」




零に0ダメージ。弥生に0ダメージ。スライムと俺で魔力は同等、弥生は少し上なので、魔法ではダメージを受けない。それに、この世界では痛みも熱さも、ダメージ的には感じないんだったな。




ヤ「どうやって倒しますか? 私の与えたダメージも、もう回復してしまっているでしょうし。」




スライムの知能は低いのか、俺達にダメージが無いと分かってからも火の玉や風の刃、木の根が襲い掛かってくる。まあ、0ダメージだからいいんだけど。と、油断していたのが悪かったのだろう。いつの間にかスライムから伸びた触手が木の根に混じって俺に突き刺さった。クリティカル発生、零に6100ダメージ。




レ「ぐっ!」




俺はその勢いで吹き飛ばされる。




ヤ「源さん! 空間固定!」




弥生は新しく覚えた空間魔法でスライムの動きを止める。時間稼ぎはできるが、時間を稼ぐだけじゃ解決しないだろう……。

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