第49話 ヴァンパイア
ヴァ「おやおや、お客様ですかな。」
俺達が話をしていると、ダンディな髭の大男が近づいてきた。弥生はすぐに鑑定をかける。
ヴァンパイア(不死):HP14000、MP1800、攻撃力700、防御力500、素早さ500、魔力500、スキル:HP自動回復(大)、物理耐性(中)、魔法耐性(大)、血魔法(8)、装備:魔力の杖・魔力200、魔法のマント・防御力200
ヤ「源さん!おそらくこの階層のヌシです!」
レ「さっきの話じゃないが、もうメィルより強いよな?」
メ「うぅ、私じゃダメージが与えられないみたい。」
ヴァ「まあまあ、落ち着きなさい。さて、座り給え。」
ヴァンパイアはそういうと、血を操ってテーブルとイスを作る。眷属作成でメイド姿のヴァンパイアガールを作り、カップとティーポットを作る。
ヴァンパイアガールが優雅に飲み物を入れてくれるが、ヴァンパイアだからか、中身は血みたいだ。
ヴァンパイアはそれを美味しそうに飲んで見せるが、俺は絶対に飲まない。
今のところ、攻撃してくる様子は無いが、警戒していると、ヴァンパイアガールが椅子を引いて待機している。
ヴァ「もう一度言う、座り給え。」
今度は殺気を込めた視線を感じたので、しぶしぶ俺達は座ることにした。
メ「私の分のイスが無いんだけど?」
メィルが小首をかしげている。
ヴァ「女神様は忙しいでしょうから、戻られては?」
ヴァンパイアは言外に帰れと殺気を込める。
メ「ぴっ、よ、用事を思い出しちゃった、またね!」
メィルはすぐさま転移していった。それを見届けると、アヌビスが口火を切った。
ア「おぬし、この階層のヌシではないな?」
ヴァ「ほぉ、何故そう思うのです?」
ヤ「攻撃してきませんし、ズルした時にしか現れないからじゃないでしょうか?」
レ「確かに、今までは問答無用で攻撃されたな。」
ヴァ「いいえ?この階層のヌシですよ、元ですが。」
ヴァンパイアはもう一度メイドに飲み物を入れさせて飲んだ。そして、手で俺達もどうぞとすすめてくる。もしかしてうまいのか?弥生を見ると、ジーっとカップを見てどうしようか迷っているようだ。
アヌビスは考え無しにカップに口を付けて飲むと、「ブッ、血が入っているのじゃ!」と叫んだ。
ヴァ「お口に合いませんか?それではこちらをどうぞ。」
ヴァンパイアは懐からワインを取り出すと、新しいカップに入れてくれた。ワインと見せかけた血じゃないよな?クンクンと匂いを嗅いでいたアヌビスが、舌ですこしすくって飲む。
今度は、「うまいのじゃ!」とゴクゴク飲み始めた。アルコールは良いのか?と思ったが、見た目は8歳でも実年齢は数万年は下らないだろうし、分裂体だから大丈夫だろう。
俺も一口飲んでみたが、今まで飲んだことが無いほど芳醇な甘みがあって、確かにうまい。むしろ、なんで最初に血を出したんだ。
レ「で、元ヌシとはどういうことだ?」
ヴァ「私は、悪魔だ。お前たちに言わせると、魔族になるのかな?それで、このモンスターに憑依している。」
ずいぶん貧弱な肉体になったものだと笑っている。そのステータスで貧弱と言うくらいだから、元はどれだけ強かったんだ?と思っていたらアヌビスが聞いてくれた。
ア「元はどのくらいの強さだったのじゃ?」
ヴァ「ふむ。女神の強さに合わせると、ランクⅤくらいだな。お前たちの言い方に合わせると、下級魔族と言うところか。」
つまり、ワルキューレ並みの強さってことか。俺達が逆立ちしても勝てないな。情報収集に努めよう。
レ「それで、魔族様が俺達に何の用だ?」
ヴァ「そう邪険にするな。私はもう本来の姿には戻れない。命からがら魔界から逃げてきて、ここへ来たのだ。肉体が消滅する寸前に、運よく私に合った肉体があったから何とか助かったのだ。」
魔界と聞いて、アヌビスが話に入ってくる。
ア「我はアヌビスと言う。我の星を襲ったのはおぬしらか?」
アヌビスは、ギシリと手を握り込む。
ヴァ「私は、星の侵略には関わっていない。その件に関しては、他の者の仕業だろう。私は魔王城を守っていた悪魔の一人だ。」
そう聞いたアヌビスは、怒りを抑え込もうと杖をぎゅっと掴んだ。アヌビスが落ち着くのを待って、ヴァンパイアは話し始めた。
ヴァ「もういいかね?単刀直入に言う。手を組まないか?」
レ「どういうことだ?」
ヴァ「女神が正義とは限らないという事だよ。」
ヤ「え?でも、女神の皆さんは良い人ばかりですよ!ちょっと怖い時もありますけど。」
ヴァ「これを聞いてもそう言えるかね?」
ヴァンパイアがそう言った瞬間、ヴァンパイアの口から槍が生える。ヴァンパイアに65300ダメージ中、物理耐性15%により55505ダメージ。
ワ「何をしている?悪魔よ。」
ヴァ「ゴブッ、フッ。」
「また会いましょう。」隣にいたヴァンパイアガールがヴァンパイアの代わりにそういうと、ヴァンパイアはコアとなり、ヴァンパイアが作ったヴァンパイアガールも、テーブルもイスもカップも消滅した。
ワルキューレはそのコアをアイテムボックスに入れると、イスが急に無くなって尻もちをついている俺を引き起こしてくれた。
ワ「すまない、逃がしたようだ。私が居ない間に何があった?」
俺はヴァンパイアが現れた時の事を話すと、ワルキューレは「報告に行ってくる。」と転移していった。
俺達は、不安を覚えて、今日はホテルに帰ることにした。フロントに行くと、勤務時間内なのにラヴィ様が居なかった。ワルキューレの報告を受けているのだろうか。そう思っていたら、カウンターの下からメィルがそろりとのぞいていた。
メ「お兄ちゃん、怒ってる?」
メィルが上目遣いで見上げている。
レ「何のことだ?」
メ「私が、お兄ちゃん達を見捨てて逃げた事。」
確かに、逃げた事には変わりないが、仮にメィルが居たとしてもどうにもならないし、帰らなかったらヴァンパイアに消されていたかもしれない。どう見てもあいつの方が強いし。
レ「気にするな、仕方ないだろ?仮にメィルが立ち向かっていてもすぐにやられていただろうし。それより、ラヴィ様は?」
メ「私が助けを求めに来た時、試験中はダンジョン内のもめ事には手を出せないと言われて、言い合いをしているうちにワルキューレ様が来て、報告を受けるから、ここで待っていなさいって。」
メィルはしどろもどろで説明してくれる。一応、ラヴィ様に助けを求めてくれてたのか。俺はメィルの頭をなでる。そして、デコピンする。メィルに0ダメージ。
レ「ありがとな。」
ダメージは無いが、おでこを抑えているメィルにそう言ってあげた。
ヤ「私たちはこうして大丈夫でしたから、メィルちゃんは気にしなくていいですよ!」
弥生もメィルをなでる。
ア「そうそう、おぬしにはどっちにしろ無理だったのじゃ!」
アヌビスが余計な事をいうと、メィルはふくれっ面になってアヌビスを殴る。アヌビスに0ダメージ。
ア「何をするのじゃ!」
アヌビスもお返しにメィルを殴る。メィルに0ダメージ。
レ「お前たち、不毛だからもうやめておけ。」
俺は2人を止めると、アヌビスにホテルに帰るぞとうながした。
その夜、晩飯は好きなものを食べるぞと、アヌビスはホットケーキを食べ、俺は久々にアルコールにひかれてビールと枝豆を食べ、弥生はビーフステーキを食べていた。ワーウルフの時に食べたくなったそうだ。
その後、ゲームやトランプをして過ごした俺達は、風呂に入り、歯磨きをして寝た。俺は、アヌビスが夜中にうなされているのに気づかなかった。
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