さいごのいっぴょう
「あと五日もすれば俺は生徒会長ではなくなってしまうんだな」
名残惜しさと切なさがほどよく混ざり合った感情が俺の口からこぼれた。
「やり残したこととかないの?」
「やり残したことか……」
明日香にそう問われ、俺はふとスマートフォンの画面を注視した。
「支持率百パーセント……数値上は百かもしれないけど、まだ一人支持してくれていないからな」
最後の一人は俺から目を逸らした。
「明日香、お前に取って俺はまだ生徒会長に相応しくない人物なのか?」
「相応しいと思っているわよ」
明日香がその答えを述べるとは思ってもいなかった。驚きを隠せずにいる俺をよそに明日香は続けてこう告げた。
「私は、誰よりも早く海を生徒会長として認めていたわ」
「嘘、だろ? だってお前は」
「何度も海に対して生徒会長に向いていないと言い続けていた。どうしてだかわかる?」
「俺に生徒会長の座を奪われたのが悔しかったから……じゃ、ないんだな?」
「質問を質問で返さないで。でも、その通り。私があの発言を続けた本当の理由……それは、私が一票を投じた生徒会長が生徒会長として不適切な振る舞いをしてほしくなかったから」
俺は耳を疑った。
「一票を投じた? 明日香が、俺に?」
風の噂で……報道部から流れた噂、つまり99.9%事実であるその噂で聞いたことがあった。俺と明日香はたった一票差で俺が当選したことを。
もし、明日香の発言が本当なのだとしたら、俺は明日香の一票によって生徒会長の役職を手にしたことになり、俺が今まで思っていた『明日香には支持されていない』という考えは間違いだったことになる。
「海が勘違いをしていることには気が付いていたし、美沙から何度も事実を告げるように言われてきた。でも、ずっと言えなかった。言ってしまったら海は満足してしまいそうだったから。満足して職務怠慢してしまいそうだったから」
職務怠慢をしてしまうかどうかはさておき、もっと早く言われていたら明日香の言う通り満足して生徒会長という役職の持つ緊張感が緩んでしまうところだった。
「ずっと隠していてごめんなさい」
そう言うと明日香はコホンと咳払いをした。それはまるで千景先輩のようだった。
「残り五日、気を緩めたら海の支持率は百ではいられなくなるから」
その言葉はこの一年間で最も俺の気を引き締める固い帯となって俺の心を縛り上げた。
生徒会議事録
残り五日。各自、最後まで気を引き締めるように。 芹沢
了解です。次の生徒会長としてより一層気を引き締めます! 七海
生徒会長コンビは気合が入っているね。 美紗
固いことを言っているけれど、普段通りで問題ないわ。 明日香
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