ふたりだけのあいあいがさ
「ワタシは体育館に寄ってから帰るので、今日はこちらで失礼致します」
「おう、この間ほどではないにしても雨が強いから気をつけてな」
「笑舞、颯くんによろしくね」
生徒玄関前で先輩たちとナナを見送ったワタシはいつもより練習が長引いたと連絡をしてくれた颯さんを迎えに体育館へ向かいました。
「おっ、書記さんお疲れ。颯なら今シャワー浴びて着替えている所だからもう少し待ってあげて。それじゃあ、お先に」
「お疲れ様でした」
最新の情報を伝えてくれた男子バスケットボール部の中木博先輩から遅れること四分。髪が濡れたままの颯さんが体育館横の男子更衣室から出てきました。
「待たせた……よね?」
「ついさっき来たところです。それよりも、まだ髪が濡れていますよ」
「これくらいなら大丈夫」
「タオル、貸していただけますか?」
「大丈夫だよ」
そう言った颯さんでしたが、すんなりとタオルを渡してくれました。
「少しだけかがんで頂ければ」
「は~い」
身長差の関係で颯さんの髪を拭きにくいのは目に見えていたので、颯さんにはワタシと向かい合い前かがみになってもらいました。
「ワタシが待っているから急いで出てきたのですか?」
「まぁ、待たせるのも悪いし」
「いつもはワタシの方がお待たせしてしまっているのでこれくらい待てます」
「そっか。ありがとう」
颯さん以外の誰かに聞かれているはずがありませんが、ワタシは急激に恥ずかしくなりました。
「お、終わりました」
「サンキュー。それじゃあ、帰ろうか」
颯さんはそう言うとワタシに向けて手を差し伸べてきたのでその手を握りました。
「雨が降っていました。傘は持って来ていますか?」
「もちろん。今日は天気予報観てきたから。笑舞さんは?」
「折りたたみ傘を持って来ています」
「そっか」
そう答えた颯さんは少しがっかりしていました。
「何か不都合が?」
「忘れていたら傘に入れてあげられたのにって……」
「……駅まで入れて頂けますか? この強い雨の中折りたたみ傘は少し心もとないので」
「もちろん。喜んで」
強く打ち付ける雨の中、ワタシはいつも以上に颯さんの体温を身体に感じながら駅へ向かいました。
明日香 「バカ」
海 「いきなり罵倒かよ」
明日香 「玄関出てから」
明日香 「傘を忘れたことに気が付くとか」
明日香 「本当」
明日香 「バカ」
海 「ごめんて」
海 「あと、ありがと」
海 「傘に入れてくれて」
明日香 「バカ」
海 「何でだよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます