さぁ、やってみよう!#5

「い、急がなきゃ」

 クラスの用事で生徒会の活動開始時間を過ぎてしまってから教室を出たナナは大急ぎで生徒会室に向かっていました。

「お、遅れてすみませんでした」

 生徒会室に入ると、海先輩たちはテレビで紗綾先輩の『さぁ、やってみよう!』第五回目を観ていました。

「七海、お疲れさん。俺たちついさっき見始めた所だけど最初から再生しようか?」

「気にしないで下さい。途中からでも楽しめると思うので」

「そうか。それじゃあ続きから再生するぞ」

 続きから再生した映像は紗綾先輩が薄く延ばされた生地を細く刻んでいるシーンからでした。

「笑舞、今日はうどんか何かを作っているの?」

「途中から見たらそう見えてしまうのね。残念だけど紗綾先輩が作っているのはチョコレートよ」

 笑舞の返答にナナは耳を疑いましたが、映像をよく見てみると画面の右上に『チョコレート作りさぁ、やってみよう!』の文字がありました。

『それではこれを揚げていきます』

 ナナが困惑している間に映像は次の段階へ進んでいて、先ほど紗綾先輩が刻んでいた生地を料理部の生徒さんが油で揚げ始めました。

「笑舞、本当にチョコレートを作っているんだよね?」

「そのはずだけど」

 最初から見ていたはずの笑舞もなぜこのようになっているのか分かっていないようでナナと同じように困惑した表情を見せていました。

『揚げあがるのを待っている間にチョコレートを溶かしていきたいと思います』

 紗綾先輩はそう言うと何のためらいも無く板チョコレートを直接お湯の中へ入れようとしました。

「『ダメ!』」

 画面の外からは美沙先輩とアッスー先輩が、画面の中からは料理部の生徒さんたちがほぼ同時に紗綾先輩へそう言いました。

『出来上がったものがこちらです』

 報道部の作った映像とは思えないほど不自然なカットが入ると、先ほど揚げていたスティック菓子の九割をチョコレートでコーティングした見覚えのあるお菓子をお皿に盛りつけた紗綾先輩がチョコレートにまみれながら笑顔を見せていました。

『皆さんも是非作って見てくださいね。ハッピーバレンタイン!』

 映像が終了してナナに残された感想は過去四回と同じく『感想にならない』という感想だけでした。



生徒会議事録

 今回で五回目か。 芹沢

 あと何回やるつもりなのかしらね。 明日香

 そろそろ『さぁ、やってみよう!』のDVD第一巻でないかな! 柚鈴

 それを求めているのは柚鈴先輩だけだと思います。 七海

 意外と明日香も求めているみたいだよ。 美沙

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