みせられないすがた
この数日、海の様子が明らかにおかしくなっていることに疑問を抱いた美沙は海の自宅まで来ていました。
「美沙……」
インターホンで呼びだしてみると、海は呼び出しに応じてくれました。ただ、その声はいつもの海からは考えられないほど覇気がありませんでした。
「海、お邪魔しても良いかな?」
「……」
海からの返答はありませんでしたが、美沙は扉を開けました。
「お邪魔します」
扉を開けると、家の中からは明らかに普段と異なる雰囲気とにおいが感じ取れました。
「このにおいどうしたの?」
「ごめん」
リビングに居た海は壁に背を預け、気だるそうに座り込んでいました。周囲にはこの数日で食べたと思われるカップ麺のごみがゴミ袋に入れられることなく放置されていました。
「何があったのか聞く前にこれ片付けて部屋の中を換気するよ」
「ああ」
そう返事をした海ですが全く動く気配がなかったので、美沙が部屋中の窓を開けて空気の入れ替えを行いカップ麺のごみはきちんと分別をしてゴミ袋へ入れました。
「ごめんね。家庭のことだから美沙たちは足を踏み入れないようにしようと思っていたけど、放っておけなくなっちゃった」
「ごめん」
「そう思うなら、こんなことになる前に相談くらいしてよ。美沙も明日香も信頼できない?」
意地悪な問いかけをしてみると、今の今まで気力を失っていた海は跳び上がるように立ち上がって美沙の目の前に駆け寄って来ました。
「美沙も明日香も……柚鈴も七海も笑舞に小雨先生だって俺は信頼している。信頼しているから心配かけたくないんだよ。こんな姿は見せたくないんだよ」
美沙の肩を両手でがっちり掴んで見下ろしながらそう告げた海の目には大粒の涙が浮かんでいました。
「こういう事は美沙よりも明日香の方が喜ぶと思うけど?」
「どういう事だ?」
「鈍感」
そう言って美沙は海の両手を振り解き、換気のために開けていた窓を閉めに行きました。
「あの、さ」
美沙がリビングへ戻ってくるとほんの少しは元気を取り戻した様子の海が視線を合わせないようにしながら呟きました。
「また、来てくれるか?」
「当たり前でしょ。もしかして、寂しいの?」
「……」
返答はありませんでした。しかし、海の首が盾に小さく動いていたのを美沙は見逃しませんでした。
美沙 「美沙が出来ることはやったよ」
美沙 「次は明日香の番」
明日香 「ありがとう」
美沙 「海にもこれくらい素直になればいいのに」
明日香 「わかっているわ」
明日香 「わかっているつもりなの」
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