まめまき

「鬼は外~」

 福品家では毎年恒例の豆まきが行われていました。

「みんなで一緒に豆まきなんて、あと何回できるかしらね?」

 例年通り鬼役を務めるパパに大豆……ではなく、落花生を投げていたママは不意にそんなことを呟きました。

「ママ? いきなりどうしたの?」

「だって、美沙ももうすぐ三年生でしょ? そして、すぐに大学生よ。そうなったら今みたいに家族で一緒に居られる時間が短くなるじゃない?」

「ど、どうだろう?」

 大学生になることと家族で一緒に居られる時間が短くなることは必ずしもイコールではないと思いますが、ママが言いたいことは理解できました。

「そうじゃなくても。好きな子が出来たら家族よりも好きな子を優先する年頃でしょ?」

「み、美沙! 好きな子が出来たのか!? 彼だろ! 海くんだろ!」

 豆まきが始まってから文句も言わずに落花生を浴びていたパパでしたが、ママの言葉に我慢できなくなったのか、鬼のお面を外して美沙に詰め寄って来ました。

「海のことは何とも思っていないよ。ただの幼馴染だから」

 もしも美沙が海のことを好きになっていたとしても、あんなにもあからさまに海に対して好意を抱いている二人を見たら身を引いていた事でしょう。

「本当か?」

「本当だよ」

「本当に本当か?」

「本当に本当だってば」

「本当に本当に本当か?」

「もう、しつこいっ!」

 じわり、じわりと詰め寄って同じことをしつこく聞いて来るパパに美沙は持っている全ての落花生を投げつけました。

「本当だよなぁ? 嘘じゃないよなぁ?」

 痛みからなのか、寂しさからなのかよくわからない涙を流しているパパを見てママはお腹を抱えて笑っていました。




美沙 「ユズリン、豆まきやった?」

柚鈴 「明日だよね!」

美沙 「今年は、今日みたいだよ」

柚鈴 「なんだって!」

柚鈴 「ミササ、ごめん!」

柚鈴 「今から豆まきしてくる!」

美沙 「うん、いってらっしゃい」

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