ほんね
「明けましておめでとう。明日香」
所用を済ませて廊下を歩いていると、その姿だけでも周囲の空気が引き締まる雰囲気を醸し出している先代生徒会会長の先本千景先輩が声を掛けて来てくれました。
「明けましておめでとうございます。三年生にとって忙しい時期に私なんかにご用事ですか?」
「お気遣い感謝するよ。用事というのは、その左腕の腕章についてだ」
海曰く、千景先輩が生徒会の新たな歴史を祝して用意してくれた腕章を用意した本人は嬉しそうにそして、羨ましそうに見つめていました。
「報告が遅れてしまい申し訳ありません。私、春風明日香は今月一日付で生徒会庶務に就任いたしました」
「風和を通じて話は聞いているよ。もし明日香が庶務に就任するとしたら推薦人は芹沢君だと思っていたけれど、初島さんが推薦するなんて話を聞いた時は耳を疑ったよ」
そう告げると千景先輩は肩を小刻みに震わせながら笑い始めました。こんな千景先輩の姿を見るのは一年間一緒に活動をしてきて初めて見る光景でした。
「ここまで想定通りに事が進まないのは初めてだよ。為奈が初島さんに声を掛けることも、風和が笑舞ちゃんを推薦することも、早川さんが会計に立候補することも読めていたのに」
千景先輩は悔しそうに、でも少しだけ嬉しそうにしていました。
「本当に芹沢君はイレギュラーな存在だよ。だからこそ、心置きなく後を託せる」
「千景先輩、私では千景先輩の後を託すことは出来ませんか?」
「そんな悲しい顔をしないでよ。私の大本命は明日香なのだから」
千景先輩は恥ずかしそうにそう告げました。
「先輩、それって」
「芹沢君を明日香のライバルとして立たせることで明日香の闘志を煽って私の跡を継がせるのが当初の目的だった。でも、私の想定に反して人気が二つに分断した。それが最初のイレギュラー。次のイレギュラーが一票差で明日香が当選するはずが、当選したのは芹沢君だったこと」
それを聞いて私はドキリとしました。千景先輩の想定では私に入るはずだった一票を海に投票したのは間違いなく私自身でした。
「でも結果として今の生徒会は私の想定以上の結果に向かってくれているから私は心置きなく卒業できそう。なんてね。明日香の生徒会再就任を祝うつもりが余計な話をしてしまったわ」
「どこまでが千景先輩の本音なのか私にはわかりませんが、とても面白いお話でした」
「そう? 楽しんでもらえたなら良かったわ」
千景先輩は満足そうに微笑むと私の右肩に優しく触れて言いました。
「明日香の願いがイレギュラーなく叶うことを祈っているわ」
確証はありませんが、千景先輩に心の奥底のさらに奥底に秘めている想いを見透かされてしまった私は顔が燃えるように熱くなりました。
生徒会議事録
アッスー大丈夫かな? 柚鈴
体調は悪くないみたいだが、顔が茹ダコみたいに真っ赤だったから心配だな。 芹沢
あとでお見舞いに行こうか。 美沙
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