しょむ

 いつものメンバーに明日香先輩を加えたワタシたち六人はいつもの生徒会室ではなく、会長の家に集まっていました。

「海君の家もいつもの場所って感じがするようになってきたね!」

「確かに、生徒会室や学食の次くらいに俺の家に集まることが多いよな」

 ワタシは会長の家を訪れるのはこれで二度目ですが、先輩方やナナは何度か訪れているようで会長の言葉に首を縦に振って相槌を打っていました。

「俺なんかの家でよければいくらでもくつろいでくれ」

 生徒会の活動でもないのにワタシたちが集まったのには理由がありました。一つは生徒会の忘年会を行うため。もう一つは日程調整をした結果、今日が偶然にもクリスマスイブだったからでした。

「そう言えば、明日香先輩にお聞きしたいことが」

「何?」

 ワタシは今まで聞こうと思っていながらもタイミングが合わず聞けていなかったことを明日香先輩に聞いてみることにしました。

「明日香先輩には普段から生徒会活動のお手伝いをして頂き感謝しています」

「あ、ありがとう。まさか、みんなの前でそんなことを言われるとは思っていなかったけれど」

「前々からお聞きしたかったことではあるのですが、明日香先輩は生徒会庶務に就任するおつもりは無いのでしょうか?」

 ワタシの質問で明日香先輩の表情が変わったのをワタシは見逃しませんでした。生徒会メンバーはというと、ナナと柚鈴先輩は庶務という役職を理解していないようでしたが、先代の生徒会から継続して役員を務めている美沙先輩と今までの生徒会が残してきた議事録を暇さえあれば穴が開くほど読んでいた会長は明日香先輩と同じように表情を変えていました。

「笑舞さん、その役職は風和先輩から聞いたの?」

「いえ、書記として過去の議事録を確認していた際に庶務という役職が何年かに一度存在していたことを知り、興味本位で調べただけです。まさか、空気が一変するほどの役職とは思いませんでしたが」

「それはちょっと違うかな」

 そう言ったのは美沙先輩でした。

「調べたって事は、笑舞ちゃんは庶務の就任方法が他の役員と異なることも知っていると思うけど、改めて説明するね。

 庶務という役職は、明才高校では会長、副会長、書記、会計とは違って生徒会選挙で選ばれる役職では無いのは生徒会選挙を経験しているからわかるよね? じゃあ、どうすれば庶務という役職に就けるのか。答えは簡単。生徒会長の任命で就任することが出来るの。

 どうして任命制なのかというと、これも簡単な理由で庶務という役職が少なくとも明才高校の生徒会ではあまり必要性が無かったから。それでも何年かに一度の頻度で庶務が居たのかというと、当時の生徒会長が五人では手が足りないと思ったから」

「なるほど」

 合点がいったかのような相槌を打ったワタシですが、おおよそワタシが個人的に調べて推測していた通りの理由でした。

「では、明日香先輩が生徒会を手伝いながらも庶務に就任していないのは会長が任命していないからという事なのでしょうか?」

 クリスマスイブに何という話題を出してしまったのだろうと今更ながら反省しながらも、ワタシは自分の心の中に生まれた興味を抑えることが出来ませんでした。

「この話を生徒会長に就任した直後に千景先輩から聞いた俺はすぐに明日香を庶務に任命したよ。美沙が居るだけでも戦力には申し分なかったけど、千景先輩の後を継ぐには明日香の力も必要だと感じたから」

「でも私はそれを断った」

 理由はすぐにわかりましたが、ワタシは答えませんでした。ワタシが答えるべきではないと思ったからです。

「みんな知っての通り、私は生徒会会長戦で海に負けて落選した。私は絶対に海には負けないと思っていたから庶務に誘われた時、海の下で働くなんて嫌だった。……ただ意地を張っているだけ」

 少なくとも楽しさは欠片も含まれていないその言葉にワタシはかける言葉がありませんでした。

「あの……」

 自分で聞いておきながらこの重い空気をどう切り替えるか悩んでいると、割り込む理由も無いので傍聴者となっていたナナが声を発しました。

「明日香先輩は今でも生徒会を続けたいと思っていますよね?」

「それは、もちろん。正攻法では無理だけど、明才高校の生徒の三分の二以上が海を生徒会長に相応しくないと思った時にはその席を奪うつもり」

 それが本気かはたまた冗談かわかりませんが、ワタシには本気で言っているように見えました。

「そんなことをしなくても、生徒会に入れば良いじゃないですか」

 会長に恋心を抱いているナナが恋敵である明日香先輩にそんなことを言っているという驚きが無茶苦茶なことを言っているという驚きにかき消されました。

「七海さん、何を言っているの?」

「『生徒会会則第8条 生徒会役員は皆平等の権限を持つ』つまり、生徒会役員の補充に関する任命権は美沙先輩や柚鈴先輩、笑舞ちゃんとナナにもありますよね?」

 ナナがそう告げたのでワタシたちは生徒会会則が載っている生徒会役員専用の生徒手帳を開きました。確認すると、確かに会則の第8条にはそう明記されていて、よく見てみると会則の第5条には『生徒会役員は役員補充の任命権を持つ』と明記されていて必ずしも生徒会長が任命する理由は無いことがわかりました。

「でも、私は海の下で働くつもりは……」

「そもそも、手が足りないからとお願いをしている時点で立場は庶務の方が上だよね?」

「無理矢理感は否めないが、美沙の言う通りではあるな」

「という事で。明日香先輩、生徒会庶務になってもらえないでしょうか?」

「な、七海さんが言うなら」

 頑固な意地をナナに壊された明日香先輩は照れ臭そうに庶務の誘いを受けました。

 パーティー開始前から空気を重くしたワタシが締めるのは申し訳が無いですが、ワタシたちは明日の仕事をすっかり忘れて夜遅くまで忘年会兼クリスマス会兼明日香先輩の庶務就任祝いを楽しみました。




 海が明日香を『せいとかいぎじろく』に招待しました。

 明日香が『せいとかいぎじろく』に参加しました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る