ぜんしん

 一仕事終えて、腕を天井に向けて伸ばしていると、生徒会室に見慣れない書が飾られていることに気が付きました。

「会長、あれを飾ったのは会長ですか?」

 ワタシの真正面で柚鈴先輩の真後ろ、生徒会室の出入り口の真横に飾られた『前進』の力強い二文字は会長が生徒会議事録や書類に書いている字によく似ていました。

「我ながら上手く書けたと思って飾ってみたのだが、生徒会室の景観には合わないか?」

「いえ、むしろ生徒会室の雰囲気には良く合っていると思います」

 あえて言葉には出しませんが、当たり前のように置かれているお菓子や一部とはいえティーセットに占領された戸棚に比べれば生徒会室に最も溶け込んでいました。

「でも、何故『前進』なのですか?」

「授業の課題だったからっていうのが一番の理由だけど、生徒会長になってから一ヶ月が経って気を緩めないためにも目に見える目標を掲げようと思ってな」

「それが『前進』ですか」

「そう。まずは千景先輩のような生徒会長に。そして、千景先輩を超える生徒会長に。なんて、今の俺には難しいことだけどな」

 会長は緩み切った顔で笑いながら言いました。

「笑舞は無謀だと思うか?」

「いえ、難しいとは感じます。ただ、達成不可能な目標ではないと思います」

 ワタシのその意見に作業中だった美沙先輩、柚鈴先輩、ナナは深く頷いてくれました。



生徒会議事録

 明日は予定通り午後一時に。小雨先生、申し訳ないのですがこのあとお話があるので残って頂けますか? 芹沢

 わかりました。 小雨

 美沙は少し遅れるかもしれないので先に始めていて良いからね。 美沙

 ミササ、慌てずにね! 柚鈴

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る