らくごどうこうかい

 ワタシと会長はある依頼を受けて落語同好会が週に一度活動を行っている茶道室へ向かっていました。

「落語同好会から部活動への昇格依頼か」

「会長もご存知の通り、部活動への昇格には最低五名以上の部員が在籍していることが最低条件です。しかし、生徒会の資料によると落語同好会には現在四名しか在籍していないようです」

「以前に口頭で依頼された時に理由を説明したのだが、わざわざ昇格依頼願を提出してきたという事は事情があるのかもしれないな。ところで……」

 会長はここまで真剣な口調で話していましたが、突然普段の穏やかな口調に戻して話題を変えました。

「落語同好会だけど、大丈夫か?」

「大丈夫とは?」

 ワタシは会長の言っている意味が理解できず咄嗟に聞き返してしまいました。

「いや、だって落語といえば言葉遊びだろ?」

「あ、そうでしたね。何故気が付かなかったのでしょう?」

 今になって気が付きました。ワタシの知る限りワタシの唯一の弱点である笑いのツボの浅さを会長は心配してくれているようでした。

「話をするだけなら大丈夫だと思います」

 ワタシは会長に余計な心配はさせまいとそう言いましたが、心の中では落語同好会だと知った上で同行してしまった事を深く後悔していました。

「さて、着いた。俺が先に入るから笑舞は俺が呼ぶまで待っていてくれ」

「わかりました」

 ワタシのことを思ってなのか、会長は先に茶道室へ入って行きました。

「笑舞、入って来ていいぞ」

「はい。失礼します」

 五分ほど待って茶道室へ入ると、すぐ目に入ったのは四色の着物ではなく法被を羽織った四名の女子生徒でした。

「お初にお目にかかります。落語同好会会長を務めます、緑谷扇子です。どうぞよろしく。続いて、部員の皆さんの挨拶」

「落語といえば欠かせないのがなぞかけですね。ではここでなぞかけを一つ。デザイナーと掛けまして暑い夏の日と説く。その心は、どちらも『せんす』が必要です。落語同好会副会長の黄金井美里です」

「先日児童会館で落語同好会の落語を披露させていただいたのですが、その時、お子さんから黄金井さん宛てにお手紙を渡して欲しいと可愛らしい文字で書かれた手紙を受け取りました。その手紙に書かれていたなぞかけが今のなぞかけです。少しは自分で考えなさい。紫吹五彩です」

「実はわたし、この部活に入る前は軽音楽部、その前は合唱部にいました。でも、どちらも私たちとは音が合わないと言われて追い出されてしまいました。歌が大好き、赤岡円です」

「笑舞、大丈夫か?」

「はぃ。ひぃ、ひぃ。だひじょうふぅでしゅ」

 呼吸が上手く出来なくなってしまうほど大笑いしてしまったワタシは知りうる限りの言語を一気に頭の中に思い浮かべることで思考を妨害し、落ち着きを取り戻しました。

「では、改めてお話ししましょう。以前にも説明した通り部活動に昇格するには最低でも五名の部員が必要とお話ししましたが、その条件を満たしていないにもかかわらず昇格依頼願を提出したのには何か事情があるのでしょうか?」

「会長の言う通り、我々落語同好会は生徒会の定めた部員数に達していません。ただ、我々としては同好会のままでは部費を頂けないので活動に支障が出てしまうのです」

「部費に関しては、各部がどのような活動に費用を必要としているのか申告してもらう必要があるのですが、落語同好会さんは費用をどのような活動にお使いになられる予定なのでしょうか?」

「座布団です」

「へ?」

「それは、一体?」

 会長もワタシも緑谷会長が何を言いたいのか全く分かりませんでした。

「落語同好会には座布団が圧倒的に不足しています」

「ワタシの目に映る限りでは茶道室には現在十枚の座布団があるように見えますが」

「それでは足りません。現在でも最低二十枚は部員が増えることを考えれば将来的には七十枚の座布団が必要と考えています」

「部員数に対してそれほどの枚数の座布団は必要ないのでは?」

「笑舞、ごめん。俺何が言いたいかわかって来た。落語同好会には申し訳ないが、部活動に昇格するにあたって部員数はどの部活、同好会にも平等に定められたルールだから特例を認めるつもりは無い。ただ、座布団に関しては生徒会が現時点で必要な二十枚は用意させてもらう。残りは部に昇格した際の部費を使ってどうにかしてくれ」

「会長、ありがとうございます」

 ワタシが何故そこまで座布団が必要なのかわからないまま落語同好会の四名は会長の提案に納得し事なきを得ました。



生徒会議事録

 落語同好会は何故あれほどの枚数の座布団が必要なのでしょう? 笑舞

 そりゃ、面白い解答をしたら座布団を一枚与えるためだろ。 芹沢

 おもしろくない解答をしたら座布団を取る為だよね。 美沙

 十枚溜まったら豪華な景品をプレゼントするためだよ! 柚鈴

 先輩方、日曜日の午後はお家でテレビ見ているみたいですね。 七海

 落語同好会というよりは、大喜利同好会だよね。 小雨

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