旅路、あるいは家族とともに
「あなた、家族はいないの?」
まるでそれまでの話をぶった切るように、突然その女性は口を開いた。
「いません。いわゆる天涯孤独というやつです」
僕が答えると、そうなの、とだけ言って彼女はまた黙ってしまった。
「ところで、さっきから気になっているんだが、その荷物は何なんだい?」
今度は女性の夫が尋ねてきた。
「あぁ、これは……」
壁に立てかけてあった袋を引き寄せて開いてみせる。
「これは、楽器かい?見たことない形だなぁ」
「僕の故郷ではよくある楽器なんですけどね」
そう言って弦を弾く。今まで何度も聞いてきた音色が部屋の中に響いた。
「独特な音がするんだね。興味深い」
「僕にできるのは、こいつを弾くことだけなもので。でも、旅している間何度も助けられました」
適当に、しかしメロディとしておかしくならないように気を付けながら弦を弾いていく。
「あなたとその楽器、まるでお互い寄り添いあっているよう」
再び女性が呟いた。
「そうですね。相棒みたいなものです」
「大事にしてあげてね。その、あなたの家族を」
それだけ言って、女性は部屋を出ていった。
「うちのがすまないね。あの物言いだから、周りにも不思議がられていてね」
残された夫が困り顔で言った。
「僕は気にしていませんよ。しかし……」
懐の楽器に目をやる。
「なるほど、お前が僕の家族か。それも悪くないな」
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