三日月だけが見ていた

 君はヒト。ボクを愛していると言ってくれたヒト。でも、ボクはヒトじゃない。ボクは君たちとは違うモノ。だから、いつも考えている。いつか必ず来る、お別れの時のことを。


「私、あなたといる未来のことばかり考えてる。どんな形の未来を思い浮かべても、あなたが隣にいてくれることは変わらないわ」


 そうだね。ずっと一緒にいよう。ボクはそう答える。君の言う未来のもっと先。君がいなくなってしまった後を思い、怯えながら。


「私、嬉しいの。あなたを愛せていることやあなたに愛されていることに」


 ボクも同じだよ。ボクはそう答える。君の言う愛が、ボクの考えている愛と同じものなのかどうか不安に思いながら。


「私、ひどいヤツだね……。こんな風に、あなたを独り残して逝くなんて」


 そんなことない。ボクはそう答える。冷たくなっていく君の身体を抱きかかえて。想像していたよりずっとずっと大きな喪失に慟哭しながら。


「私、あなたにずっと忘れないでいてほしいわ。だってもう、私はあなたのものなんだから」


 忘れるはずなんてない。かつての君の言葉を思い出しながら呟く。だって、ボクもまた、君のものなのだから。


 君のいない世界で、ボクはずっと考えている。ボクを愛してくれた君。ボクの愛の形は、愛のあり様は、君を満たすのに足るものだっただろうか。


 いつか。もう一度君に会う事が出来たら、答え合わせがしたいな。そんな風に思いながら、三日月の下で杯を傾けた。

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