第112話 証明

全てを話しを聞いた後、何も考えられず、呆然とすることしか出来なかった。


野村君の言ってた事と、正反対の事を言うケイスケ君。


どちらが本当の事を言っているのかわからず、呆然とすることしか出来なかった。


「美香ちゃん?」と呼ばれ顔を上げると、ケイスケ君は「大丈夫?」と聞いてきた。


「でもさ、野村君は『裏で糸を引いてたのは木村大地だ』って言ってたよ?」と言うと、ケイスケ君は大きくため息をついた後、「ていうかさ、野村の顔、わかるの?」と呆れたように聞いてきた。


「…わかんないけど」


「そこだよ。顔も知らないやつの言う事は信用するけど、顔を知ってる大地の事は信用できないっておかしくない?」


「…確かに」


「しかもさ、大地が来なかったら、もっと酷いことになってたんだよ?大地に助けてもらったんだよ?それなのに信用できないっておかしくない?」


ケイスケ君の言葉に、何も言い返せないでいた。


実家の場所を知っていたのは、私の後を追いかけるように歩いていたから。


もし、野村君の言う事が本当だったら、いつでも襲い掛かる隙はあったはず。


けど、それをしなかったって事や、復学後に周囲から「肺炎大丈夫?」と言われてたって事は、ケイスケ君の言う事が事実であることを証明している。


『私、もしかしてすごい勘違いをしてた? けど、あの女の人がいる限り、会うことはできないよね…』


そう思いながらため息をついていた。


ケイスケ君はため息をついた後、「今から大地呼んでいい?」と聞いてきた。


思わず「ダメ!」と即答してしまうと、ケイスケ君は「なんで?」と、眉間にしわを寄せながら聞き返す。


「あの女の人… 妊娠してた人の事があるし…」と言いかけ、言葉を止めると、ケイスケ君は黙って考え始めた。


「その事は大地に聞いてみるよ。 もし本当だとしたら、俺も大地の事、人として見損なうと思うし… でも違うと思うんだよなぁ… シュウジ君が生まれた時、めっちゃうれしそうに話してたし、意外と子ども好きっぽいしさぁ。 弟であんだけ喜んでたんだから、自分の子どもだったら相当喜ぶんじゃないかな? それを関係ないって突き放したんでしょ? なーんか引っ掛かるんだよなぁ…」


ケイスケ君の言葉に何も言い返せないでいると、ケイスケ君は「とりあえず聞いてみない事には、本当のことがわかんないよね?」と言い、携帯を操作し始めた。


「待って!」と言いかけると、「あ、もしもし?大地?」と…


慌てて荷物を持って立ち上がり、「美香ちゃん、待った!」の言葉に耳もくれず、その場から逃げ出すことしか出来なかった。


走って寮に帰り、玄関を閉めた後、その場で蹲ってしまった。


『逃げる必要あったのかな… 本当の事、聞けばよかっただけなんじゃないかな…』


大きくため息をつき、呼吸を整えた後、ベッドで横になった。


『全然成長してない… 高校の時も逃げまくってたし、今も同じ事してる… 逃げるって、いまだに大地君の事、好きだって証明してるようなもんじゃん… 』


そう思いながら天井を眺め、大きくため息をつくことしか出来なかった。

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