第96話 日常
木村君としばらくの間抱き合った後、木村君はゆっくりと体を離し「そろそろ帰るな」と言ってきた。
『もう帰っちゃうんだ…』と思っていると、木村君はおでこにキスをし「変な気起こす前に帰るよ」といたずらっぽく微笑んで、立ち上がった。
玄関まで見送ると、木村君は振り返り「明日…はダメか。また来れそうなときに連絡するよ。その時はまた作りすぎててくれない?」と聞いてきた。
「わかりました。その時は何が食べたいか教えてくださいね」と言うと、木村君は触れるだけのキスをし、私の家を後にしていた。
食器を洗いながら『変な気、起こしてもよかったのに… もう少し一緒に居たかったな… 何考えてんだか。 会社の社長だよ? そんなことできるわけないじゃん。 でも、キスしてるし…』と自問自答を繰り返し、食器を洗い終えた後、思いを振り払うようにシャワーを浴びた。
翌日も、その翌日も、木村君からは連絡がなく、カオリさんの指示でわかりにくいところを思い出しながらメモばかりをしていた。
けど、メモ書きなんて1日で終わってしまうし、かと言ってやることもないので、ネットで簿記について勉強をし直していた。
『メモ書きどうしよう… 月曜に渡せばいいのかな…』
ふと思いついた時には金曜日だったんだけど、少しだけ悩んだ後、『スーパー行くついでに寄っちゃおうかな』と思い立ち、準備を始めた。
駅前で差し入れのケーキを買った後、久しぶりに事務所へ向かうと、中にはケイスケ君とユウゴ君の二人だけ。
ケイスケ君は私を見るなり「あれ?どうしたの?」と聞き、ユウゴ君は差し入れのケーキをこっそりと、私の手からかすめ取っていた。
メモ書きを頼まれたたことを言うと、ケイスケ君は「あー、今親会社行ってるんだよねぇ… いつ戻るかわかんないや。 少し待ってる?」と聞いていたんだけど、ユウゴ君がケーキを食べているところを見ると「俺の食うなよ?」と言っていた。
『この人たちはホント変わらないねぇ』と、少し懐かしい気持ちでいたんだけど「スーパー行くついでに寄っただけなんで、すぐ帰りますよ」と言い、ケイスケ君にメモを木村君に渡すようお願いした。
ケイスケ君が「ちょっと待ってみればいいのに…」と言ってきたので、「ここにいるとケーキ食べたくなっちゃうから」と答えると、ユウゴ君が「ばいばーい。早く帰れよ~」と…
軽くイラっとしながらも、木村君が居なかったことにガッカリとしたまま、スーパーへ行き、そのまま自宅へと向かった。
その日の夜も、木村君からの連絡はなく、ひたすら簿記について調べたり、もらった名刺を眺めるばかり。
返事をどうするかも、木村君からの連絡もないまま、あっという間に1週間が過ぎ、普段通りの日常が始まっていた。
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