第94話 騒動
突如として始まった自宅待機だったんだけど、引継ぎもある程度終えて、少しだけホッとしていた。
今までできなかった洗濯や掃除を済ませ、お昼を食べた後、特にやることもなく、テレビをつけた。
テレビをつけると同時に視界に飛び込んだのが、白鳳の不正のニュース。
雑誌に書かれていた、元制作部長のパワハラや、圧力指示だけではなく、経理部長の横領や、現副社長のセクハラ、労働基準法違反までもが出るわ出るわ…
記事を見た元社員のリークだけではなく、内部告発も起きていたようで、中継先の白鳳本社の前には大勢の記者で溢れていた。
本社の前に黒い車が停まり、車の中から山根さんが降りると同時に、一斉にフラッシュがたかれる。
大勢の記者たちは、山根さんに対し、思い思いの質問を投げかけていたんだけど、山根さんは記者たちをチラッと睨みつけただけで、本社の中に消えて行った。
『あの態度はないんじゃないかな…』
そう思いながらチャンネルを変えると、どのチャンネルも白鳳の事ばかり。
真剣な様子で、白鳳そのものを批判しているコメンテーターをボーっと眺めた後、テレビを消し、その場で横になった。
『叩けば叩くだけ埃が出るか… 今まで好き勝手やってたし、ツケが回ってきたんじゃないかな…』
そう思いながらボーっと天井を眺めた後、ゆっくりと起き上がり『買い物行くかな…』と思い立ち、スーパーへ買い物に。
ボーっとしたまま豆腐ハンバーグの材料を買い、ボーっとしたまま帰宅。
『白鳳があったから今ここに居るんだよね… 白鳳が無かったら、動画も作れなかっただろうし、山根さんが居なかったら、アニメのプロジェクトにも参加できなかっただよね… 血を吐いて倒れなかったら、木村君の会社に居なかったんだろうし、木村君の会社に居なかったら、昔の記憶が無いこともわからないままだったんだよね…』
そんな事をボーっとしながら考えていると、作りすぎていることに気が付いた。
『やっちゃった… 冷凍するとおいしくないんだよなぁ…』
仕方なく、タネを小分けにし、ラップで包んでいると、携帯にメールの着信があった。
メールは木村君からで【夕飯何?】と言う短い文。
ボーっとした頭のまま【豆腐ハンバーグですよ】と返信すると、すぐに【食いに行って良い?】とのメール。
何も考えず【作り過ぎちゃったんです】と返信すると、木村君から【終わったらすぐ行くな】とのメール。
ハッと我に返り『あれ?って事はここに来るって事?あ、ちょっと嫌かも…』と後悔し、すぐに訂正メール文を打って送ったんだけど、木村君からは【終わったらすぐ行くな】とのメールが再送されてきた。
こうなったら腹を括るしかなく、大きくため息をつき、なんとなくテレビをつけたんだけど、相変わらず、テレビの向こうでは白鳳の事ばかり。
ボーっとしたままテレビを眺めていると、インターホンが鳴り、ドアアイを覗き込むと、私服姿の木村君がドアの向こうに立っていた。
『やばい!もう来た!?ってもうそんな時間!?』
アタフタしながらテレビの時計を見ると、18:34の文字。
『ボーっとしすぎた!』と思っても、時すでに遅し。
『着替え… ジャージじゃないから大丈夫!化粧してない!どうしよう!!』
一人パニックになり、うろたえていると、テーブルに脛をぶつけてしまい、激しい痛みに蹲っていた。
再度インターホンが鳴り、半分泣きながらドアを開けると、木村君は心配そうに「どうかした?」と聞いてきた。
足をぶつけたことを言うと、木村君は「相変わらずドジだな」と笑い、中に入ってきた。
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