第88話 暗号

山根さんが去った後も、話の内容が理解できず、木村君に聞いてみた。


木村君は「おそらくだけど、浩平が『美香の引き込みに成功した』って言ったんじゃないかな?実際には大高を引き込んだんだけど、山根には『美香』って伝えてたとか?在宅でって話は、大高と山根を会わせないために使った嘘。大高が時間稼ぎしている間に、美香を引き込もうとしたのかもな。もしくは、嘘をついて白鳳に逃げようとしたとか?あいつらしい小賢しい考えだよ」と言いながらため息をついていた。


「給料の振り込みとかでバレますよね?」


「手渡しだとしたらバレないよな?浩平が『俺が渡しに行く』とでも言うつもりだったんじゃね?昔からいけ好かない奴だったけど、ここまで落ちぶれるとはねぇ…」


木村君がそう言うと、ヒデさんが「よし、邪魔ものもいなくなったし続きやろう」と切り出し、作業を再開した。


その日以降、浩平君は毎日のように来社し、木村君の横をすり抜け私の元へ。


「なぁ美香、頼むよぉ。一緒にホワイトリリィ行こうぜ」と、木村君の目の前で言い、文字通りつまみ出されていた。


そのせいで、事務所には暗証番号式の電子キーが設置され、気軽に入ることが不可能に。


その結果、浩平君は門前払いを食らうようになっていた。


そんなある日の土曜、事務所で先生の案件を熟していると、事務所のインターホンが鳴り、ケイスケ君が対応していた。


笑いながら話し、中に入ってくるケイスケ君を見ると、そこにはけいこちゃんと勇樹君の姿があった。


「あれ?どうしたの?」


「ヒデさんから聞いたけど、面白そうな事してんじゃん。私たちも混ぜなさいよ」


けいこちゃんはそう言うと、空いている席に座っていた。


ヒデさんが「お前らには給料払えないぞ?」と言うと、勇樹君が「クレジットには名前入れてくれればそれでいいっすよ。ついでに本編作成の経験させてくださいよ」と、笑いながら言っていた。


強力なメンバーが二人も増えて、作業が一気に捗っていた。


しかも、けいこちゃんはアニメを作るためにこの業界に入った人だから、作業がスムーズすぎるくらいスムーズに進んでいた。


そして第1話が完成し、木村君とエンディングを作っていると、木村君が勇樹君に「フルネームで良い?それとも別のネームにする?」と聞いていた。


勇樹君は少し考えた後、「ユウゴと被るんだよなぁ…YoUにして。YとOが大文字ね」とお願いし、けいこちゃんも「私、Kayが良い!」と名乗りを上げていた。


以前は会社名を伏せていたけど、今回は協力の部分に会社名を記載。


木村君は「これで離れて行った企業が戻るといいな。あんまり忙しすぎるのも嫌だけど」と、苦笑いを浮かべていた。


数日後、第1話の配信が開始されたんだけど、配信サイトのコメント欄には歓喜の声であふれていた。


そこでもやっぱり批判の的になるのが、白鳳とホワイトリリィ。


【最初からこの会社に頼めばよかったんだよ】とか【白鳳が出しゃばったせいで連載が終わったんだ】とか、更には【白鳳にクレーム入れた】と言うコメントまで。


白鳳を持ち上げるようなコメントは、全て【白鳳の自演】とまで言われている現状に、『白鳳と白百合ならあり得る』と、ただただ呆れかえるしかなかった。


そして配信開始の翌日、会社にはひっきりなしに仕事依頼の電話が鳴っていた。


『エンディングで名前を載せただけなのに、こんなに反響があるなんてすごいなぁ』と、ただただ感心していた。


木村君は何度も頭を下げ、大半の仕事は断っているようだったけど「あの量を一気に受けたら全員再起不能になるわ。暗号にしておいて、最終話で名前を出せばよかったな」と少し後悔しているようだった。

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