第84話 ため息
カオリさんの話を聞いた後、ユウゴ君はクスっと笑い始め「大地ならまだしも、コウヘイだろ?美香とは仲良くないし、完全に山根の人選ミスだろ」と言い切った。
確かに、浩平君とはあまり話したこともないし、いつも怒られてばかりだったから、正直言って苦手な部類に入る人だし、お金を借りようとしたことや、懲戒解雇になったことは、私のせいだと思い込んでいるだろうから、向こうも嫌っているはず。
それでもああやって山根さんと出向いたのは、『使えるコマ』が欲しいから。
作業が出来て、お金もかからない。
しかも、『前期OPメンバー』と言う知名度も確立されていたら、喉から手が出るほど欲しい人材なのだろう。
浩平君の中では『美香を差し出して、自分は親会社に行く』と言う算段なのかもしれない。
けど、山根さんを見ただけで、酷く動揺し、泣き出してしまったんだから、引き抜いたとしても、思い通りの作業ができるわけがない。
ハッキリと断らなきゃいけないんだろうけど、顔すら見れない状態なのに、断ることが出来るのか、不安ばかりが募っていた。
少しだけ黙って考え込んでいると、カオリさんが頭をポンポンと叩き「大丈夫よ。ここに居る子たちに守られてるでしょ?昔とは違うでしょ?」と、小さな子どもに言い聞かせるように言ってくれた。
「はい…」と小さな声で返事をすると、カオリさんはため息をついた後、「ホント、山根も切羽詰まってるって感じよねぇ。前期OPメンバーだけじゃなくて、自分が潰した子、ほぼ全員のところに行ってるって話だし、中には美香ちゃんみたいに泣き出した子もいるみたいよ。外堀を埋めるときに、詐欺紛いな事をしてるから、そのうち訴えられるんじゃないの?」と、呆れたように言っていた。
「というか、制作部長っていまだに部長なんですか?」
「ううん。現常務取締役。あの人、今は派閥トップだし、そのうち山根と共倒れするんじゃない?ちなみに子どもから『ATM』って呼ばれてるらしいわよ?奥さんは旦那がどこで何をしても一切無関心なんだって。もしかしたらあっちも不倫中かもね」
カオリさんの言葉を聞いて「うわぁ…」としか言えなかった。
私が白鳳に居た時、山根さんが窓口になっていたから、当時の部長と話したことがほとんどないし、どんな人だったかも思い出せない。
『そこに座っているだけの、ただ静かな人って印象しかないんだよなぁ…』
そう思いながらみんなと話をし続けた。
カオリさんが酔いつぶれることもなく、無事に帰宅出来たんだけど、帰宅後、なんとなくテレビをつけると、問題となっているアニメが放送されていた。
元々はバトルファンタジーアニメで、目玉はバトルシーンなのに、セクシーな服装をした女性や、半裸の女性が主人公に迫るばかり。
画面上では大騒ぎをしていたんだけど、見ているこちらはシラケるばかり。
『バトルはどこいった?』と聞きたくなるほどの展開を続けていたんだけど、画面の下に『諸事情のため、次週より放送を休止します』の文字。
『でしょうねぇ』と思いながらテレビを消し、ベッドに倒れこんだ。
『テレビ局側だけじゃなくて、出版社からもなんか言われたんだろうなぁ… そうじゃなかったら3話で放送休止ってしないよねぇ…』
そう思いながらため息をつき、天井を眺めていた。
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