第61話 遊び

けいこちゃんの家から帰る電車で、爆睡していると、肩をトントンと叩かれ目が覚めた。


ふと目を開けると木村君が目の前に立ち「着いたよ」と優しい笑顔で伝えてくれた。


お礼を言い、小さく伸びをした後、電車を降りると、「遊び?」と聞いてきた。


「そうです」


「誰と?」


「かおりさんです」


木村君は「ああ…」と言うと、少し眉間にしわを寄せた。


「まずいですか?」と聞くと、「いや、仲が悪いよりも良いだろ」と言い、優しい笑顔を浮かべていた。


「社長はお出かけですか?」と聞くと「兄貴」とだけ。


それ以上は聞いちゃいけないような気がしたので、黙って歩いていた。


改札を抜けると「飯行こう」と誘われ、二人で食事を取りに行くことに。


『二人でなんて久しぶりだな』と思いながら食事を取り、木村君は家まで送ってくれたんだけど、別れ際に「ちゃんと寝ろよ?寝不足でミスしたらペナルティだからな」と恐ろしいことを言い、そのまま家に向かっていた。


疲れ切っていたせいか、シャワーを浴びた後、ベッドに倒れこむと爆睡。


少し早い時間に目が覚め、パソコンを立ち上げてメールを見ると、けいこちゃんから新たな素材とともに【勇樹参加キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!】の文字。


それを見た瞬間から、ウキウキとワクワクが止まらなかった。


毎日週末が待ち遠しくて仕方なく、待ちきれない思いをぶつけるように仕事に没頭する日々。


自宅での作業は23時までと決めたせいか、酷い寝不足になることはなくなっていた。


毎日帰宅後にメールチェックをし、けいこちゃんから新たな素材やメッセージを見ては一喜一憂していた。


【大介参加キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!】の文字を見た時は、嬉しさのあまりガッツポーズをしてしまうほどだった。


ある日のメールで『いつも泊まらせてもらってるから、うちに来て』とけいこちゃんに伝えると、けいこちゃんは『遠いよぉ。行くけどさぁ』との返信。


週末になると、あゆみちゃんが「飲みに行こう」とお誘いをしてきたけど、「予定があるからごめんね」と言い、定時きっかりに作業を終え、駅に向かって走った。


けいこちゃんは大きな荷物を持ち、携帯を弄りながら改札の前に立っていた。


「ごめーん」と言いながら駆け寄ると、私を見るなり「遅い~!遠いぃ~!」と笑いながら言っていた。


駅前でお弁当を購入し、話しながら駅に向かっていると、ユウゴ君とばったり。


ユウゴ君は片手を上げ「おう」と言っていた。


挨拶をすると、ユウゴ君はけいこちゃんを見て「友達?」と聞いてきた。


「そうです」と答えると、けいこちゃんが「誰?」と聞いてきたので、「副社長」と答える。


するとけいこちゃんは、かおりさんに吹き込まれたようで「これが成金のボンボン?」と…


ユウゴ君は「は?なにこいつ、感じ悪!」と言い始め、けいこちゃんが「だってかおりさんが言ってたし…」と、ふてくされた。


二人を宥めた後、ユウゴ君と別れ、ブツブツ言うけいこちゃんと一緒に自宅に向かう。


自宅に着いてすぐ、お弁当を食べて、すぐに作業を開始した。


作業をしていると、けいこちゃんが思い出したように切り出してきた。


「あ、かおりさんから聞いたんだけど、ヒデさんも参加したいって言ってたみたい。でねでね、監督もそのうわさを聞きつけて、もし必要なら別荘使っていいよって!その代わり、俺も参加させろって言ってた!」


「マジ!?」


「うんうん!ここから電車で1時間くらいかな?元々どっかの会社の保養所だったらしいんだけど、広さも十分だし、ちょうどいいんじゃないかって言ってた!ただ、使えるときと使えない時があるから、その辺は事前に連絡してくれって。遊びで始めたのに、みんな集まっちゃったね」


「やっば!超嬉しいんですけど!!」


「とりあえず来週と再来週はOKって。本業に差し支えないようにしろよ?って怒られちゃった」


けいこちゃんの一言にグサッときてしまったけど、それ以上にワクワクした気持ちを抑えきれずにいた。

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