第49話 秘密

木村君が真由子ちゃんに付きまとわれ始めてから数日経ち、久しぶりにあゆみちゃんが出勤する金曜日。


この日は真由子ちゃんが休みのせいか、木村君は朝から元気だった。


元気と言っても、ユウゴ君のようにバカなことを永遠と言うわけではなく、ちょっとテンションが高い感じ。


あゆみちゃんも介護中の親が入院してしまい、「やっとゆっくりできるぅ!」と、朝からテンションが高かった。


介護を始めてからと言うもの、あゆみちゃん自身に心境の変化があったようで、ゆっくりでも確実に、仕事をこなすようになっていた。


わからないことはすぐにケイスケ君に聞き、必死にメモを取りながら学んでいく。


ゆっくりでも確実に、頑張っているあゆみちゃんの姿は、見ているだけで『自分も頑張らなきゃ』と言う気持ちにさせてくれた。


その日の定時後、珍しく定時間際に作業を終え、後片付けをしていると、あゆみちゃんが「美香っち、飲みに行こう!」と。


嫌ぁな予感がしたので、「いや…あのさぁ…」と言いかけると、ユウゴ君が「おごり?」と言い出した。


「割り勘だよ。つーか美香っちと二人で女子会だから!男子禁制!」とあゆみちゃんが言うと、ユウゴ君が「女装すればいい?」と…


あゆみちゃんは「ダメだっつーの!お前はきもいんだよ!二人で話したいことがあんの!」と必死に止めるけど、ユウゴ君は食い下がらず「じゃあついて行く。隣に偶然座る分にはいいだろ?」と反論。


全くと言って良いほど譲らない二人に、圧倒されてしまった。


ユウゴ君が「大体何の話すんだよ?」と聞くと、あゆみちゃんはニヤッと笑い「それは言えないなぁ」と…


『やっぱりあの話ですね。わかりました。どうあがいても逃げられなさそうなので、覚悟しますよ』と思いながら、あゆみちゃんに「着替えに行こうか」と声をかけた。


二人で更衣室に入り、あゆみちゃんの耳元で「秘密の場所行こう」と言うと大喜び。


二人でさっさと着替えた後、呼び止める声に目もくれず、なぜか腕を組んでスーパーへ。


つまみになりそうな材料と、あゆみちゃんのお酒、自分の飲み物を購入し、私の家へ案内した。


あゆみちゃんは部屋に入るなり、キョロキョロと周りを見渡し「あんなに忙しいのに綺麗にしてるねぇ」と言ってきた。


「すぐ作るから、ちょっと座って待っててね」と言い、料理を始めると、あゆみちゃんは「私料理苦手なんだよねぇ」と言いながら隣に並び、出来上がった料理をテーブルに運んでくれた。


お酒とウーロン茶で乾杯すると、あゆみちゃんは「で?で?社長とどうなってんの?」といきなり切り出し。


どうなってんのと言われても、今現在付き合っているわけではない。


『もしかしたら元カノなのかも』と言ったとしても、それが真実なのかわからないし、どう言えばいいのかわからない。


言葉に迷っていると、あゆみちゃんは「腹割って話そうぜ!」と言い始め、前のめりになっていた。


『この状況で逃がしてもらえないだろうなぁ』と思い、今現在の自分の状況を話すと、あゆみちゃんは「元カノかもしれないって、なんで社長は、はっきり教えてくれないの?」と聞いてきた。


「わかんない。楽しんでるのかも…」


「つーかさ、美香っち、最初見た時は死にそうだったもんね。『こいつ大丈夫か?』って本気で思ったよ。パソコンに向かったら追われてるっていうか、怯えてるっていうか、すごい怖い目して、黙々と手動かしてさぁ。『こいつ絶対やばい奴だ』って思ったもん。最近は『かっこいいなぁ』って思うけどね」


「かっこいい?」


「うん。専門用語バンバンで何言ってるかわかんないけど、『承知しました』って言うとスタタタタタってやって『終わりました』ってさ。社長、ギャップにやられたのかって思ってたけど、そうじゃないんだ。あ、そういやユウゴがほめてたよ?」


「副社長が?そう言えばどういう関係なの?」


従妹いとこ。仕事もしないでフラフラしてたらあいつに捕まった。あいつバカじゃん?ユウゴの兄貴の方が馬鹿だから。そこんとこよろしく」


『この子の親族じゃなくてよかった』と思いつつも話をしていた。


「大地、好きでもない子にキスなんかしないと思うよ?つーか家も入れない。あれの兄貴ほどではないけど潔癖だから。これはマジ。浩平は入ったことないんじゃないかな?

それとね、これはマジで秘密なんだけど、大地、高校3年間同じ人にずっと片思いしてて、告白する前に卒業したんだって! しかも、しばらく引きずってて、元カノをその子の名前で呼んじゃって別れたらしいよ?美香っちが来る半年くらい前かな?休憩室で話してたの聞いちゃった!マジ最悪じゃない?」


その後も冗談を交えて話をし、あゆみちゃんは話しつかれたのか眠ってしまった。


『好きでもない子にキスなんかしない… 高校3年間片思いしてた… って事は付き合ってなかったって事? ますますわかんないなぁ…』


そんなことを考えながら、使い終わった食器を洗っていた。

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