第48話 疲労
資料をまとめたまでは良いんだけど、木村君は戻って来ず。
『確認してもらわなきゃいけないんだけどなぁ…』と思っていても、2階に上がる勇気も無く、別の仕事に取り掛かった。
仕事を終えるのは良いんだけど、最終チェックをする木村君がいないと、納品まで進めないし、チェックするものが増えれば増えるほど、木村君の作業が必然的に増えてしまうから、正直、どうしていいかわからない。
『どうしよっかなぁ』と思っていると、ケイスケ君が「どうしたの?」と声をかけてくれた。
チェック待ちだということをケイスケ君に話すと、真由子ちゃんが「私行きます!」と。
するとケイスケ君が「行っても無駄だろ?何にもわかんないんだし、出しゃばった真似をしないほうが良いよ」とため息交じりに言っていた。
真由子ちゃんはそれでも食い下がらず「でもでも、これからパートナーになる身としては、事前にこういったことを経験したほうが良いと思うんです!」と…
『ん?パートナー決定なの?』と思っていると、「うるさい。黙れ。勝手に決めんな」とユウゴ君が初めて口を開いた。
思わず「…喋った」と言ってしまうと、ユウゴ君は「後で覚えとけよ」と…
小声で「すいません」と言うと、浩平君が事務所に戻り、真由子ちゃんは席に着いた。
『今のうちに!』と思い、資料を持って2階へ。
どんなにドアをノックしても、扉が開くことはなかった。
「社長、資料をお持ちしました」と言いながらドアをノックすると、ゆっくりドアが開き、ジャケットとネクタイを外した木村君が姿を現した。
「体調不良ですか?」と聞くと、「いや、大丈夫だよ。入って」と言い、奥に行ってしまう。
資料を広げ、説明をしていると、木村君の手がすっと伸び、私の髪を撫で始めた。
「勤務時間内だからセクハラで訴えられますよ?」と言うと、「時間外ならいいの?」といたずらっぽい優しい笑顔。
「ダメです」って言ったんだけど、木村君の手は離れず、ずっと髪を撫でていた。
「言って良い?」
「なんですか?」
「俺さ、ずっとこうしたかったんだよね。高校の時」
「ん?『高校の時したかった』ってことは、付き合ってないってことですか?」
木村君は「あ…」と言うと手を離し、「今の聞かなかったことにして」と、笑顔でごまかした。
「ダメです。ちゃんと聞きました。どういうことです?」と聞いても、それ以上答えてくれることはなく、「ここ、どうしようか」と、誤魔化すように仕事の話を始める始末。
「ずるいなぁ…いっつもそうやって誤魔化す…」
「じゃあ1個だけ教えるよ。 昔俺の事、大地って呼んでた」
「本当ですか?」
「嘘。さてと癒されたし、仕事行くか!」
木村君は大きく伸びをしてから立ち上がった。
つられるように立ち上がると、木村君は「もうちょっと」と言い、私を抱き寄せ優しいキス。
唇を離した後、「よっしゃ!疲れ飛んだ」と笑顔で言うと、ネクタイとジャケットを手に持ち、玄関で「行くぞ」と。
木村君の後を追いかけ、1階に行くと、扉の向こうから浩平君の声が聞こえた。
が、木村君が姿を現すと、浩平君は黙り込み、作業を始める。
『そういえば、この2人が話してるところって、あんまり見たことないかも… あんまり仲良くないのかな?』
そんなことを思いつつも、作業を再開した。
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