第46話 癒し

残業をしても4人は戻らず、『お腹すいた… メモ書きして帰ろうかな…』と思っていると、応接室の扉が勢いよく開き、浩平君が飛び出してきた。


あまりにもびっくりして、小声で「お疲れ様です…」と言ったんだけど、浩平君は私を見て舌打ちをした後、荷物を持って事務所を飛び出した。


『なんで舌打ち?』と思っていると、応接室から出てきたケイスケ君が「あれ?美香ちゃんまだいたの?」と。


かおりさんの案件の事を話すと、干からびかけた木村君とユウゴ君は自分のデスクに着き大きなため息をついた。


木村君は「悪い、ちょっと待って」と言うと、椅子に浅く座り、背もたれにもたれかかる。


ユウゴ君は手に持っていた書類をデスクに置き、その上に突っ伏して、唸り声をあげていた。


「副社長、これやっておきました」とファイルを差し出しながら言うと、「ああ」と短い返事をするだけ。


『よっぽどお疲れなのねぇ』と思いながら立ち上がろうとすると、ユウゴ君が「美香、腹減った。なんか買ってきて」と…


いつも言っている『何度も言ってますけど、私はパシリじゃありません』って言葉が出ないほど、二人とも憔悴しきっている状態。


ユウゴ君に「何がいいですか?」と聞くと、「何でもいい。酒も買ってきて」と…


木村君にも何がいいか聞くと、「あー…、美香の手料理が良い」と、うわごとのように言い始めた。


するとユウゴ君がガバっと起き上がり「なにそれ?新商品?俺もそれが良い」と…


「嫌です」と言ったんだけど、二人とも一歩も引かず、かと言って遅い時間になってしまったから、作っている時間もない。


そのことを丁寧に言ったんだけど、二人とも聞き入れてくれない状態。


『冷凍食品温めて、手料理って言い張ればいいかな』と思い、買い物に行こうとしたら、ユウゴ君に「冷凍はやめろよ」と注意を受けてしまった。


「冷凍は食い慣れてるからわかるぞ」とまで言われてしまい、成す術がない状態。


「この前の休みに、ミートソース作って冷凍しておいたんですけど、それも冷凍に入りますか?」と聞くと、ユウゴ君は「許可する!2階で待ってるからダッシュで行ってこい!」と…


『何様だよ…』と思いながら自宅へ行き、冷凍してあったミートソースを持ってスーパーへ。


パスタとサラダを購入し、事務所へ行くと、木村君が一人でデスクに座り、動画をチェックしていた。


「かおりさんの案件、どうでした?」


「問題ないよ。ユウゴの案件は修正箇所あるけど、明日でいいや。サンキュ」


「このまま納品しちゃいますね」と言いながら椅子に座り、かおりさんにメールを送る。


その後、資料室に行き、ファイルを片付けていると、いきなり背後から腕が伸び、抱きしめられた。


「ちょ…」


「少しだけ… ちょっとだけ我慢して」


疲れ切っている木村君の声に、抵抗できないでいる。


「お疲れですね」


「かなりな。 もうこの話辞めよう…」


そう言われてしまい、言葉が出なくなってしまった。


自然と沈黙が訪れたんだけど、しばらくすると木村君はゆっくりと離れ「サンキュな。癒された」と、笑いながら言ってきた。


すると2階から「早くしろよ~。腹減ったぁ」と言うユウゴ君の声が…


木村君は笑いながら「ムードもクソもねぇな」と笑い、2階へ向かっていき、私もその後を追いかけた。


2階に着いてすぐ、私の家よりかなり広いキッチンで食事の準備をし、料理をテーブルに並べた途端、3人は一斉に食べ始める。


立ったまま『猛獣みたい…』と思い、眺めていると、ケイスケ君が「食べないの?」と聞いてきた。


『この状況で手を伸ばしたら、ユウゴ君のフォークが頭に刺さりそうな気がする…』


そうは思っても、言葉に出すと何を言われるかわからない。


「もう帰りますし」と言うと、木村君が「送るから待って」と言い、急いで食べ始めた。


「一人で帰れますからゆっくり食べてください。お疲れさまでした」と言い、逃げるように2階を後にした。

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