第39話 3度目
木村君からキスをされ、過去の一部を思い出した少し後、休憩室を出ると、3人は自分のデスクについていた。
私の姿を見るなり、ケイスケ君が「無理に思い出さないほうが良いと思う。 うちの姉ちゃん、無理に思い出そうとして入院してたから…」と、言いにくそうに言っていた。
「…わかりました」と言った後、ユウゴ君に向かい「いろいろ申し訳ありませんでした」と頭を下げると、ユウゴ君は「な~にがぁ~?」と言いながら缶ビールを飲んでいた。
「あの… 学校…」と言いかけると、「退屈だったんだよなぁ~。あの学校。かわいい子はいねぇし、授業はつまんねぇし。 辞めたおかげで今の技術があるんだしぃ、可愛い彼女もできたしぃ」と、とぼけるばかり。
『何があったのか聞きたい』と思ったけど、今聞いたところで、全てを正確に話してくれそうな空気ではなかった。
「…もう帰ります。お先に失礼します」と言うと、木村君は一気に缶ビールを飲み干した後、立ち上がり、黙ったまま入口の方に向かった。
入口の前に立っている木村君に一礼し、外に出たんだけど、木村君はぴったりと横に並び、歩き始める。
「…社長、あの大丈夫ですから」と言っても、木村君は何も言わないし、足を止めようともしない。
「…本当に大丈夫なんで」と言うと、「俺が送りたいから送ってるだけ。文句ある?」と、少し赤い顔で笑いながら言ってきた。
ゆっくりと黙ったまま歩き始めたんだけど、どうしても聞きたいことがあって切り出した。
「あの、失礼に当たるかもしれないんですけど…」
「ん?」
「…付き合ってたんですか? 私たち…」
消えそうなほど小さな声で聞くと、木村君はクスっと笑い「どっちがいい?」と聞き返してきた。
「どっちって…」
「どっちでもいいんじゃね? 今こうしてる事の方が重要だと思うよ?」
『はぐらかされた…』そう思いながらため息をつき、しばらく黙っていた。
しばらくの沈黙の後、木村君は「知りたい? 本当の事」と切り出した。
「はい。知りたいです」
「じゃあさ、泊めてくれたら教えてあげるよ。 ベッドの中で」
「は?」
「それでもいいなら教える」
「知らないままでいいです」と言いながら歩くスピードを上げると、木村君は「待てって。冗談だって」と笑いながら追いかけてきた。
「本気で言ってるのに…」
「一つだけ教えるとしたら、俺も本気って事だよ」
「どういう意味ですか?」
「わかんなければそれでいいよ。 で、今日泊めてくれる?」
「泊めません。セクハラです。親会社に言います」
立て続けに言うと、木村君は「それだけは勘弁してほしいなぁ」と言いながら笑っていた。
冗談を交えながら歩き、家の前に着くと、木村君は「兄貴こえぇから帰るかぁ」と言い、大きく伸びをした。
「そうしたほうが良いですよ。結構酔ってるでしょ?」と笑いながら言うと、急に私の体を引き寄せ3回目のキス。
立っていられないくらいの、酷く激しい頭痛は一切感じず、ただただ唇の柔らかさと、彼の温もりを感じていた。
俯きながら唇を離すと、木村君は私を強く抱きしめ「頭、痛い?」と。
黙ったまま顔を横に振ると、耳元で「4回目、してもいい?」と聞いてきた。
木村君の胸に顔を埋めながら「…ダメです」と答えると、木村君はおでこにキスをした後、ゆっくりと体を離し「また月曜な」と言い歩き始めた。
『やっぱり付き合ってたのかな…』
考えれば考えるほどわからなくなり、木村君の事を思い出すだけで胸が締め付けられるように苦しくなる。
『好きって感情、どこかに忘れてきたと思ったのになぁ…』
そう思いながら家に入り、ベッドに倒れこんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます