第71話 幼女襲来

 甘味処を後にしたボクは、さっそく子狐屋の宣伝動画を作ろうと思い家に帰ることにした。

 

「さて、どんな風にしよう? インタビューは必要だよね。さくらさんの可愛い顔と声をお届けするだけでも人気になれそうだし」

 動画を見た人間の人には悪いけど、実際に会いに行けるのは妖種限定となってしまう。

 たとえ推しになっても会えないのだから、ちょっとかわいそうかもしれない。


「くれはちゃ~ん、み~つけた」

「うひゃう!?」

 これからのことを考えながら歩いていると、突然お尻に何かが挟まってすごく驚いた。

 どうやらしっぽに顔を埋めているようで、ぐりぐりしながら「きゃう~」などと言っている。


「もー、瑞奈ちゃん、だめだよ」

 声に覚えがあったので後ろを向いてお尻に張り付いた妖狐幼女をひっぺがえす。

 捕まえてもまだぐりぐりしてきて、お尻がムズムズしたので少し強引に剥がすと「えへへ~」と悪びれもしない笑顔でボクのことを見つめてきたので、「このこのこのこの~」と言いながら抱きしめてもみくちゃにしてあげた。


「はー。くれはちゃんしゅき」

 ボクの攻撃に陥落してしまったのか、幼女瑞奈はボクに抱き着きながらそんなことを言い出した。

 たくさん構って遊んでくれたのでお気に入り認定されたようだ。愛いやつよのぅ。


「ところで瑞奈ちゃん? なんでここにいるの? お姉ちゃんは?」

 未だ抱き着いて離れない、愛らしい幼女の耳と尻尾を撫でながら問いかけると、とろんとした声で「おねえちゃんはおでかけ~。あたしはいえのまえをおさんぽちゅ~」と教えてくれた。

 一人で歩いてたら危ないよ?


「そうなんだ? 降りられる?」

 抱き着いたままの瑞奈ちゃんに優しく声をかけるが、返ってきた答えが「やー」だった。

 どうやら可愛がりすぎてしまったようだ。

 甘えん坊モードになった瑞奈ちゃんを抱えながら、しばらく一緒に遊ぶことにしよう。


「これはこれは暮葉様。瑞奈と遊んでいただきありがとうございます」

「いえ。そうだ、少し瑞奈ちゃんとボクの家で一緒に遊んできたいんですけどいいですか?」

「えぇ、構いません。暮葉様のご実家ならどこよりも安全ですからね。それに瑞奈も実にうれしそうですし。後ほどそちらに迎えに行きますね」

 

 近くで様子を見ていた瑞奈ちゃんのご両親に挨拶をして一緒に遊ぶ旨を伝えた。

 それからボクは瑞奈ちゃんを抱えてボクの家まで連れていく。

 すぐにこっちに来るって言ってたし、大丈夫だと思うけど。


「くれはちゃん、おっきなもんだね~」

「そうだね~。ここはボクの家の前の門だよ」

「お~」

 無警戒幼女は嬉しそうに返事をする。

 うん、もう少し警戒したほうがいいと思います。すっごく危ないし心配だよ。


「後で迎えに来てくれるって言ってたし、少し遊んでいこうね。一人だと危ないし」

「うん~。きょうは~、おさんぽびよりだったの~」

 傍から見ると誘拐したような形になっているけど、家族には了解を取ってあるので問題はないだろう。


「おかえりなさいませ、お嬢様」

 門番の烏天狗さんがボクを見つけてそう声をかけてきたので、「ただいま」と返して門を通る。


「あ、あとで瑞奈ちゃんのご両親が来ると思うから通してあげてください」

「了解しました」

 忘れずに伝えておこう。

 後でトラブルにならないようにね。


「はー。くれはちゃんのおうち、すご~い! ひろ~い! おっき~!」

 体いっぱいに両手を広げて精いっぱい大きさをアピールしてくれる瑞奈ちゃん。

 その姿が無性にかわいいので、ついつい撫でてしまう。


「瑞奈ちゃんは何して遊びたい?」

「ん~、なんでも~」

 ボクにくっついたまま離れない瑞奈ちゃんはそう応えただけだった。

 これは抱き上げたまま遊んだほうがいいのかな?


「あら、暮葉様。可愛らしい子を連れていますね」

 通りがかった妖狐族のメイドさんがボクに声をかけてきた。


「可愛がりまくってたらこうなっちゃいまして……」

「ふふ。耳と尻尾をつい撫ですぎてしまったのですね。今は興奮状態だと思うので、そのままでいればいずれ落ち着くと思います」

「ありがとうございます」

 さすがは妖狐族といったところか。

 瑞奈ちゃんの状態についてアドバイスをもらえたので、このまま庭で抱っこしたままゆっくり過ごすことにした。

 ちょうど天気もいいし、ここでも問題ないだろう。


「ふわふわとまらなーい」

 瑞奈ちゃんはまだとろんとした顔のままでそう言った。

 やっぱり撫でくりまわしすぎたかな。


 確認のために尻尾を軽く触ってみると、瑞奈ちゃんはぴくんと反応した後「ふぁあう~」と声を漏らしていたので、まだだめみたいだった。

 ボクは瑞奈抱きしめたままあやすようにしてしばらく一緒に過ごした。


「くれはちゃーん。おちついたー」

「よかった。ごめんね。尻尾とか耳とかいじりすぎると良くないの忘れてたよ……」

「だいじょうぶ~。しっぽふにふにたのしかったー」

 瑞奈ちゃんは実に楽しそうだったが、今度はお返しとばかりにボクの尻尾がもふられるのだった。


「ひゃっ、瑞奈ちゃんそこだめだってばあああ」

「くれはちゃんもふもふ~。たのし~」

 結局この後、のこのことやってきた黒奈も捕まえてみんなで触り合いをして遊んだ。

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