第33話 にゃーにゃー七海チャンネルその1 ようこそ異世界へ

「にゃっはー! 猫村七海だよ~! 『にゃーにゃー七海チャンネル』はっじま~るよ~」

 暁さんの生放送はハイテンションな導入から始まった。思わず同一人物なのか疑いたくなるほど、キャラクターに違いがある。学校で会った時はもうちょっと落ち着いた人だと思ったんだけどなぁ。


「今日はなんと! あの、噂の、異世界へ、行ってまいりました~!! いぇ~い」

『七海ちゃん、それまじ!?』

『あのどこにあるかもわからない上に知ってる人と一緒に行っても何も起きないっていう噂の異世界ってやつ?』

『色々噂はあるけど憶測ばっかりだよね。政府による適性検査があるとか。本当のところ、どうやって行くの?』

『絶対行きたい!!』

「まぁまぁ落ち着いて! 行き方は色々あるんだけど、『本当に行きたい』という気持ちと『自身の何かを変えたい』っていうとても強い気持ちがとっても大事なの~! それと最も大事なことだけど~、政府が実施している適性検査に合格すること! これらをクリアするといけるようになるわけ! た・だ・し、行けないとしても絶望しないで。同じ世界を模したVRMMOゲームが酩酊社から出ているの! これさえあれば生身でなくとも異世界をゲーム感覚で楽しめちゃうわけ♪ 実際行けない人もVR感覚で今日の放送を観ていってね!」


 暁さんこと七海ちゃんはかなり高めなテンションで放送を開始した。結構丁寧に話す印象だったけど、七海ちゃんになるとかなりフレンドリーな感じになるんだなぁ。


「はい、今日は異世界にある中枢都市『スピカ』に来ています。今日は友達で、近々Vtuberデビュー予定のクロちゃんに来てもらっています~」

「クロ。よろしく」

 画面に映った黒猫の猫又姿の黒奈は若干緊張した表情で、言葉少なめにそう言った。実際、ムードメーカーなところのある黒奈だけど、見知らぬ人がいると途端に無口になるところがあった。いつもの黒奈を見るには、もう少し慣れが必要そうだった。

『うお、可愛い子! でも猫耳?』

『無口系な子なのかなぁ。先行して見られるなんて運がいいな』

『黒猫大好き!!』

『ケモミミィィィィィ』

『¥5000 ありがたやありがたや』


 黒奈の登場により、チャット欄はより一層盛り上がりを見せていた。黒奈ってパッと見た感じだけだとクール系黒猫娘なんだよね。実際はかなり人懐っこいけど。

「今回は特殊な技術を使っていて、出演者のうちVtuber関係の子はそのキャラクターで表示されるようになっているの。まぁ申請して通ればこの世界専用のアバターを用意することもできるみたいだけどね。ちなみにここでいうアバターっていうのは、この世界で使用できるようにした肉体のことで、元の体を一時的にコピーして変化させているってわけ。体形や身長は変化しないし、性別も変わらないから注意してね?」


 映像は黒奈や異世界のことを簡単に説明した後、街中を映し出していく。

「この都市には七つの学園と中央神殿、そして各種業務を執り行う行政機関があるの。住宅街もたくさんあって東京以上に都市が広がっているのも特徴かな? あとは見ての通り色々な種族の子がいるんだよね。技術レベルは地球より少し上で、車やバイクが空を飛んだりもするよ!」

 映像の中では街を行き交う人々や空を飛ぶバイクなどが映し出されていた。特に反響が大きかったのは猫耳や犬耳、狼耳や狐耳を頭に生やしている獣人だろう。ここでの獣人は基本的に人間に耳や尻尾が生えたような姿をしている。まさにライトノベルとかで描かれるような獣人の姿そのものだった。

「この中央南側通りは七学園のうち、二学園の間を通り抜けるように作られている通りで、その間に商店街やオフィスなどがたくさんあるんだよ。それから学園の配置なんだけど、北東、東、南東、南西、西、北西、そして中央にあるんだ。中央のセレスティナ学園は中央神殿の少し上にあるちょっと変わった学園だよ」

 近未来感のある街並みの中には現代にもあるような建物も多く混ざっており、少し不思議な気分にさせられた。道行く人々の服装も大して変わるわけでもないし、普通に道を走る自動車や自転車などもあった。遠くに見える鉄道は少しだけSFチックではあるものの、普通に線路を走っていた。


「あ、七海! それにクロも!」

 異世界紹介の途中で、七海ちゃんたちに呼びかける女の子の声がどこからか聞こえてきた。そして、カメラは声のした方向を振り向く。


「こんにちは、アリサにエマ、それとモモにミドリ、アルマ」

 カメラが向いた先には、四人の学生服を着た女の子がいた。全員ブレザーのおそろいの制服で、身体の見た目こそ違うものの、全員に共通して言えることは人間以外の特徴を持っていることだった。

 四人組はそれぞれ、狐耳の獣人の少女、全く同じ顔に見えることから双子だと思われる猫耳姉妹、狼耳のクールな少女、そして天使の輪と純白の羽根を持つ少女だった。

 当然チャット欄は大いに盛り上がった。スパチャもすごい勢いで投入され、突如現れた美少女に拝みだす人も出る始末だった。

『うおおお、天国はここにあったあああああ!!』

『狐耳、良い』

『双子の猫耳姉妹かわゆ』

『クールな感じの狼耳少女っていいよね。マジ最高』

『天使ちゃんきた! お迎えされたい』

 一部だけを抜き出してもこんな感じの文章ばかりなのだから、興奮度が分かろうというもの。


「モモ、ミドリ」

 黒奈はそう言うと、双子の猫耳姉妹はダッシュして黒奈に抱き着き、両脇を抑えてしまった。しかも、それだけでは足りないとばかりに甘えるように頬ずりまでする始末。

「クロ、相変わらず二人に好かれてるね~。さっすが二人のお姉ちゃん役」

「妹増えたのは嬉しい」

 七海ちゃんにそう言われて、黒奈も嬉しそうに微笑んだ。


「そういえば動画配信してるんだっけ? 今撮影中? なら学校の中も撮ればいいよ。案内するよ」

「アリサ、いいの?」

「いいっていいって。それに七海たちだってうちの学校に所属してるじゃない」

 そう言うと、アリサと呼ばれた狐耳の少女はすっと画面から消えた。


 アリサさんが消えた後、しばらくすると、上空の方からエンジンか何かの駆動音が近づいてきた。カメラが上に向けられ、映像がその物体を映す。するとそこには、空中からゆっくりと降下してくるアリサさんのまたがったバイクがあるではないか。どうやらアリサさんはこれを取りに行っていたようだった。

「三人までなら乗れる大型のエアロバイク。これで一緒に学校まで行こうよ」

「ありがとう、アリサ。ところで、スカートの中が見えそうなんだけど、それはいいの?」

「なっ!?」

 アリサさんはそう指摘されると、急に内股になりながらもじもじとしつつ、エアロバイクを降下させていく。その時の顔は真っ赤だったのは言うまでもない。


「簡単に紹介しておくと、この黒髪の狐耳の子がアリサという名前で、このメンバーの中だと一番元気な子。続いてこっちのこげ茶色の毛の狼耳少女がエマ。一見クールな女の子だけど懐くとすごく構って欲しがるから、ギャップ萌えが楽しめます。とってもかわいい! 次は桃色と緑色の髪の毛をした双子の猫耳姉妹がモモとミドリ。人見知りかつ口数が少ないけど、心を許した相手にはすっごくなつく可愛い子です! そして最後の銀髪の子がアルマ。見た通りの深窓の令嬢といった感じの天使だね。まぁ本当のお嬢様だったりするけど。天然なところもあるから、ある意味一番癒される子かな~」

 七海ちゃんの紹介を聞いた視聴者の反応は様々だ。今のところ一番人気なのは元気系狐耳少女のアリサさんだけど、百合要素や庇護欲を感じさせるという理由でモモちゃんとミドリちゃんも人気だ。現在狼耳少女のエマちゃんと銀髪お嬢様天使のアルマさんは同じくらいの人気といったところだろうか。


「ほら、動画撮ってていいから行くよ? クロは七海の後ろに乗ってね」

 アリサさんはそう言うと、七海ちゃんの手を引き、自身の後ろに乗せた。それから今度は七海ちゃんが黒奈の手を引き、自身の後ろに乗せる。こうして三人が一直線に並ぶようにエアロバイクに乗ると、浮上を開始した。

「じゃあ少しドライブするので、一時休憩だよ~」

 映像の七海ちゃんがそう言うと、画面は一時的に暗くなったのだった。


「じゃあ映像も一段落したので、少し休憩してから再開しようね!!」

 七海ちゃんの言葉と同時に、一時的に準備中の画像が差し込まれ、少しの間休憩時間となった。


「ふぅ。面白かった。異世界、なかなか面白そうだね。さて、ボクも少し休憩しよっと」

 映像はまだまだ序盤。これからどんな風景が見られるか本当に楽しみだ。ボクは少しばかり休憩のつもりで、ベッドの上にごろんと寝転ぶのだった。

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