第16話 ついに来た! 温泉へのお誘い

 今回配信したゲームはちょっとインディーズなゲームだけどそれなりに人気はあるらしい。

 大きな建物も建てられるようになっているようだし襲ってくるサメを食料にすることもできる。

 襲われるだけじゃなくて逆に襲ってくるのを楽しみにしておいて、いずれ来るサメ肉食べ放題のために地道にダメージを与えていくというプレイも可能なようだ。

 操作慣れするためにも配信時以外にも別セーブを作って少しプレイをする。

 とにかくレベルが上がるまで同じことを繰り返し続けていくだけなので、新しいものが開放されるまでは拡張するか作るか叩くくらいしかやれることがない。

 仕方ないのでただひたすらに食事と水を作り無駄に違法建築物を板で漂流する洋上に作り上げていく。

 目指せ戦艦扶桑の艦橋のような建築物!

 

 ボクはひたすら素材を集めていく。

 ただただ持てなくなるまで。

 釘を作りロープを作り壁を張り柱を建て床板を敷く。

 そして階段を作って1セット。

 ここまでが簡単な部屋の作り方だ。

 木づちはどんどん壊れるし、漂流物は絶え間なくやってくる。

 あっちへ行きこっちへ行き、サメがこなくてもやることが多くて忙しい。

 ついでに言えば地味に酔う。

 ボクは何度かダウンしてしまった。

 辛い、辛すぎる! このゲームはサメの襲撃以外は平穏だけどただただ休む暇がない。


「はぁ、頭が痛い。少しだけ妖狐に戻ろう」

 ボクは自分の姿を妖狐の姿へと戻した。

 この姿の時は、傷や体調が人化しているときよりも早く良くなるのでできれば多用したい。

 けどお母様たちからはボクに限らずこっちでの妖化は原則禁止されている。

 とはいえ何が何でも禁止というわけではないので部屋の中でこっそりというくらいならば一応問題ない。

 見つかったら大目玉だけど……。


「はふぅ~。この姿の時は本当に落ち着くよね~。あぁ~尻尾がわさわさしてる感覚好き」

 自分の尻尾を体の前に回してベッドの上に転がりながら抱きしめる。

 温かい。そしてもふもふで抱き心地がいい。

「こっちでこの姿のままでいると、うっかりそのまま外に出て大変なことになるらしいからなぁ。人類にも耳と尻尾があればいいのに」

 妖精郷の住人にいる人間の一部には、ケモ耳と尻尾が生えた人間と同じ姿をした存在がいる。

 ボクらは人間と呼んでいるけど、こっちの人間からすれば獣人かもしれない。

 ちなみに妖精郷の方では、大昔は獣憑きと呼ばれていたらしいけど、今は亜人という扱いのようだ。

 そんな亜人と呼ばれる彼らは妖種たちのほうで預かり、仕事を与えている。

 その他に住む人間たちは世捨て人になった者や人間界と行き来できる資格を得て田舎で農業をして悠々自適に暮らしている者たちとなる。

 ちなみに彼らは別の仕事として人間界にいる妖種の住む里山を守ったりしている。

 先祖代々の土地を離れたくない者もいるからだ。


「……」

 ふと手元にある手紙に目を通す。

 今日届いたあーちゃんからの手紙だった。

 内容は簡単に言うと、人間界の人間たちをVRの世界を通して妖精郷のバーチャル街に招待しようというものだ。

 一時的に彼らはそこで別の身体を得て活動することになるというわけ。

 これはバーチャルキャラクターを持つVtuberにも同じことがいえる。

 ただし、この街は色々と特殊な技術を駆使して作られるが、一応現実に存在する街だ。

 今後どのように発展していくか分からないけど、妖精郷に住むことを決めたVtuberやバーチャルキャラクターを持つ人たちがその街で新たな生を得る日が来るのかもしれない。

 そこはそんな不可思議で頭のおかしい街となるわけだ。

 最高神の気まぐれのせいで。

 ただそれでも良いことはある。

 引退することになったVtuberがそのキャラクターを捨てるとき、そのキャラクターたちはバーチャル街で新たな生を得ることが出来る。

 好きだったあの子、推していたあの子が消えてなくなってしまうことがなくなるのだ。

 そしてVR世界を通してまた会いに行けるようになる。

 きっと最高に頭がおかしく素晴らしく楽しい街になることだろう。


「ほんと、ファンタジーだよね」

 ボクはぼそりとつぶやくと自分の尻尾の匂いを嗅ぐのだった。

 やっぱり落ち着く。


 しばらくもふもふして楽しんでいると、酒吞童子からメッセージが入ってきた。

 内容は――。

『次の休み、亜寿沙姉が運営してる温泉に行くぞ。関係者全員連れてこい』

 何とも簡潔で男らしい内容だった。

 それにしても温泉かぁ。

 ボクは温泉が大好きだ。

 出来ることなら毎日でも入りたいけど、そうなると妖精郷に行くか温泉の湧いている場所へ行くしかない。

 妖精郷の本邸には温泉はあるけど落ち着いて入ることが難しいので、ゆっくりしたい時は強くお願いするしかない。

 でもそれをやってしまうと皆ものすごく悲しそうな顔をするので無理。

 なので残る選択肢は『温泉のある別の場所へ行くこと』のみになる。

 ちなみに、妖精郷の夕霧家本邸ではたくさんの妖種の女性が働いているため、夕霧家の者は必然とお世話を受けることになる。

 そのお世話は多岐に渡り、入浴手伝いからマッサージやエステ、髪のお手入れから服の準備、食事や掃除など様々だ。

 特にお母様は大変で、年若い妖狐族の少女たちにとてもモテるので皆お母様のお世話に付きたがる。

 なので喧嘩しないように持ち回り制にして付きっきりでお世話をしている。

 ちなみに寝る時すら側を離れることはないので必然的に同衾することになるという。

 お母様としてはボクたちと一緒に寝たいようだけどまだまだ無理なようで、あっちに行くとなかなか放してもらえなかったりする。


「しかし温泉か~。亜寿沙姉様の場所なら妖狐用の温泉もあるよね~。楽しみ」

 亜寿沙姉様の運営している温泉は大きな温泉施設で、妖狐の姿で入ってもいい温泉も多くあるのでとても楽しいのだ。

 ただ普段は人間の利用者もいるため、妖種用浴槽は利用することが出来ない。

 そんな人気温泉施設なのだが、三か月に一度妖種用浴槽が開放される時期がある。

 開放タイミングになると貸し切りになるため、必ず酒吞童子を通してお誘いがくるのが通例となっている。

 つまり、酒吞童子からお誘いが来たということは貸し切り確定ということなのだ。

 「はぁ、温泉楽しみ」

  ボクはちょっと先の温泉を想像して楽しみにしつつ、ベッドの上に寝転がったまま自分の尻尾の手入れを始めるのだった。

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