第10話 宮内杏と夕霧暮葉

 高校、それは退屈で拘束時間も長くとても眠くなる場所。

 なんならボクだけでもいいのでベッドで眠らせてほしいとすら思っている。

 こう見えてボクは勉強も得意なので成績は結構いい。

 バカな鬼娘の酒吞童子ですら上位に食い込む成績を残している。

 もちろんほかの鬼娘たちも問題ない成績をしているし、ボクのお付きの烏天狗のみなもちゃんも高成績を残している。

 唯一の例外は猫又の黒奈。

 あの子は正真正銘のおバカ猫だった。


「暮葉暮葉、お腹空いた! おやつちょうだい」

 さっきの授業中、ばれないように器用に寝ていた黒奈がボクを見上げてそう言った。

 このおバカ猫は寝るか食べるかしか頭にないのだろうか。

 とはいっても、見た目は美少女なのでクラスの男子からはモテているし、クラスの女子からも可愛がられおやつをもらったりしている。

「う~ん。はいビーフジャーキー」

 ボクが取り出したビーフジャーキーをしげしげと眺める黒奈。

 そして徐に一言。ろにほ

「なんでビーフジャーキー? もらうけど」

 黒奈はそれだけ言うとボクの手から直接ビーフジャーキーを口にくわえて食べ始める。

「うまっ、うまっ!」

 やっぱり厳選されたビーフジャーキーだけあって味も大変よさそうだ。

 黒奈が満足してくれて嬉しいよ。

「はぁ、ただいま~。トイレ遠いし寒いわ。って俺のビーフジャーキーじゃねえか! お前、また勝手に黒奈にあげたな?」

 トイレから戻ってきた酒吞童子はビーフジャーキーをおいしそうに食べる黒奈を見てボクに文句を言ってきた。

「いいでしょ? どうせたくさんあるんだし。それに黒奈はチョコとかクッキーでも喜ぶけどすぐお腹空いたって言ってくるんだから満足感あるほうがいいでしょう?」

 黒奈は酒吞童子と同じくいくら食べても太らない体質をしている。

 そのせいなのかわからないが、すぐにお腹が空くようなのだ。

 ボクはそう言いながら黒奈のショートカットの頭をなでなでする。

 

 黒井黒奈はボクのお付きの一人でお調子者担当だ。

 短めの奇麗な黒髪をしていて、後ろは短いが前髪は眉くらい、両サイドは顎付近まで伸ばしていて長くなっている。

 全体的にスレンダーだがボクよりは出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでいる。

 身長もそこそこあって155cmほどもある。

 なお瞳は黒色で目全体は少し切れ長な感じになっている。

 ちなみに性格はのんびり屋な感じだ。


「暮葉暮葉、これうまい! 酒吞童子のみたいだけど、酒吞童子すごいな! すごくない?暮葉暮葉」

「そーだろそーだろ! お前わかるな! よし、もっと食え」

 褒められて気を良くした酒吞童子はもっとビーフジャーキーを黒奈の前に出す。

「暮葉暮葉、食べさせて! あーん」

 さっそくボクにビーフジャーキーを食べさせてほしいとおねだりする黒奈。

 仕方なしにボクも一枚手に取り黒奈の口へと運んであげることにした。

「うまっ、うまっ!」

 ふと周囲を見ると、黒奈を見てほっこりしている人が多数いた。

 それを見て、クラスの飼い猫ですと宣言しても受け入れられそうだなとボクは考えてしまうのだった。


 しばらくしてお昼休み、それは現れた。


「暮葉ちゃん? ちょっといいかしら」

 呼ばれたのでふと見ると、高校の校舎にはいないはずの人、弥生姉様がそこにいた。

 同時に弥生姉様を見た人がざわざわと騒ぎ出す。

 弥生姉様は見た目の可憐さもその優しさも含めて任意がとても高い。

 そうこうするうちに空気を読まない一人の男子生徒が弥生姉様に近づいてこう言った。


「弥生さん! ファンです! 握手してください!」

 途端に静まる教室内、困惑する弥生姉様、唖然とするボクたち。

 弥生姉様は気を取り直して「少しだけならいいですよ?」と言い片手を差し出しした。

 男子生徒は感激して両手でガシッと掴んで握り返した。

 当然姉様は困惑の笑顔を浮かべているが、わかるのはボクたちくらいなものだろう。

 姉様は基本的に怒らないからなぁ。


「ありがとうございました!」

 そして男子生徒はそのまま帰っていく。

 微妙な不快感をその場に残して。


「暮葉ちゃんのクラスの子、変わった子が多いのね?  あ、そうそう用事なんだけど、この子覚えてるかしら」

 気を取り直した姉様はボクに一人の小さな女の子を見せてきた。

 知っているような知らないようなそんな女の子。

 明るい茶色い髪をしたボクより若干身長が高くて胸が無駄に大きいそんな女の子。


「あ、あの……」

「ええっと。覚えがあるようなないような。ここまで出かかってるんだけど思い出せない」

 ボクはそう言ってお腹の中腹あたりを手で指し示す。

「ちょうど消化中といったところかしら? もう少し消化まってほしいな~」

 のほほんとそう言う弥生姉様は本当に天使のようだとボクは思った。

 なぜなら頑張ってツッコミをしてくれるから。

「姉様、ヒントプリーズ」

 ボクは思い出せず姉様にヒントを求めた。

 少なくともボクが妙な気分にならないってことは初対面ではないはず。

「そうねぇ、夏祭りと言えばわかるかしら?」

「夏祭り。う~ん。そういえばお手伝い希望の子にすっごく元気でアピールのすごい子がいたような」

 ボクがそう言うと、なぜかみなもちゃんから苦笑が漏れた。

 当人である目の前の女の子はまだ目の前で緊張して固まったままだ。

「そうね、その時の子よ。名前は宮内杏ちゃん」

「よ、よろしくお願いします! 弥生様と同学年です」

 なんと、目の前の女の子はボクより年上の先輩だった。

 敬語使ったほうがいいのかな?

「あ、はい。よろしくお願いします。杏先輩」

 ボクがそう挨拶すると、杏先輩はびくりと体を震わせて「敬語はやめてください暮葉様。それと先輩もいりませんから。杏で十分です……」と申し訳なさそうに言ってきた。

「わかったよ。ありがとう、杏ちゃん」

「は、はい!!」

 杏ちゃんは実に嬉しそうに輝く笑顔でそう言った。

「おーおー、また信者が増えたか。お前ってそういうところがあるよな」

「なにそれ」

「あとで茨木たちにも教えてやらねえとな」

 茨木童子たちほかの鬼は隣のクラスに在籍しているため今この場にはいない。

 もう少ししたら一緒にお昼を食べに行くのでその時に合流する予定だ。

「もう、鈴はすぐそう言うんだから」

 とりあえず杏ちゃんの手前、酒吞童子と呼んでいいか悩んだので名前の部分で呼ぶことにした。

「おう? 急にそっちで呼ぶからびっくりしたぞ。まぁ学校にいるときはそっちで呼ぶほうがいいか」

 酒吞童子もそれに同意する。

「あら? 呼び方変えるの?」

「うん。ボクたちだけじゃないし、杏ちゃんもいるならなおさら変えたほうがいいかなって思って」

「いえ、そんなことはお気になさらずに今まで通りで」

「いや~、そうもいかなくて……」

「あ~、まぁそうだな。だから気にするな、のけ者にしようってわけじゃねぇんだ」

 上位の鬼とボクたちの関係は同じ妖狐族といえど簡単に見せるわけにはいかない。

 それでなくとも、鬼と交流する種族は少ないし見ただけで怯える子もいるのだから。

「そうねぇ。鈴ちゃんたちはある意味特殊だものね」

「おう! というわけで『酒井鈴』だ。よろしくな」

 ニッと笑って片手を差し出す酒吞童子。

「は、はい。よろしくお願いします」

 杏ちゃんもおずおずとだが酒吞童子の手を握り握手をした。

 

 こうしてボクたちは友達になった。

 まぁ杏ちゃんの目的はボクのお手伝いのようだけどね。


「や、来たよ。待っていたかな?」

 茨木童子がにこやかな笑顔でこっちへやってきた。

「まってよ~。もう、一緒に行こうっていったじゃない」

 そのあとを追いかけるように熊童子が早歩きで合流した。

「スクナ起きて。重い」

「お腹空いたよ~。は~や~く~た~べ~よ~」

「あはは、スクナは仕方ないなぁ」

 金熊童子と星熊童子がスクナを運びながらこっちへやってきて全員合流となった。

「スクナだめだめだね。ご飯もうすぐだからがんばって」

「う~、暮葉がそう言うならがんばるよ~」

 ボクではスクナは運べないので、そのまま皆に運んでもらいながらボクたちは移動することにした。

「あ、あの。あたしもご一緒していいですか?」

 杏ちゃんが不安そうにそう聞いてくるが、ボクたちの仲間は誰一人嫌そうな顔はしなかった。

「もちろんだよ」

「おう、なかったら分けてやるから安心しろよな」

「おや? 新しい子? 暮葉はまたひっかけたのか。『茨木三奈』だよ。よろしくね」

「私は『熊谷加奈」だよ? よろしくね」

「ん。『金井美和』という。よろ」

「あたしは『星野真央』といいます! よろしく~」

「うちは『少名水樹』といいま~す。よろしくね~」

「あ、はい。『宮内杏』です。よろしくお願いします」

 こうして皆の簡単な自己紹介が終わり、ボクたちはお昼ご飯にありつくのだった。

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