第771話 デブリーフィング

 気が付いたら夜になっていた。

 何回戦したかは定かじゃないし、そんなことは重要じゃない。


 途中、部屋にロロが入ってきそうになって副長が大慌てで連れていったりしていた。気を遣わせちまったみたいだ。

 すでにのじゃロリモードに戻ったアカネは、ソファで体を休めている。

 それはともかく、俺は司令室の椅子に座り、念話灯とにらめっこをしていた。


『そう……聞いた感じだと、こちらよりもアインアッカの方が被害が大きい』


 聞こえてくるのはセレンの声だ。どうやらあっちの方もファルトゥールの濃霧から解放されたとのこと。

 アインアッカの様子を伝えると、セレンはすこし驚いたような声になっていた。

 セレンの口ぶりから察するに、グランオーリスの首都アヴェントゥラは思っていたほどやばい状況じゃないようだ。


「そっちはどうなんだ?」


『それほど大きな被害はない。連絡が取れなくなって、混乱は起こったけど。人が発狂したり、悪夢を見たりということは報告されてない』


「まじか……どうしてだろうな? いや、被害がないならそれに越したことはないんだけど」


 俺は顎を押さえる。


「おそらく、神の山が近いせいじゃ」


 口を開いたのはアカネだ。


「神の山?」


「そうじゃ。あそこはマーテリアの根城。濃い神性が漂っておる。それ故、ファルトゥールの霧も抑制されたのじゃ」


 女神同士が牽制し合ったってことか。

 ううむ。敵の敵は味方と言うが、この状況だと敵の敵もまた敵なんだよなぁ。


「じゃが、神の山におるのはマーテリアだけじゃないのじゃ。奴だけでファルトゥールの力を抑え込めるとは思えん。あくまで封印されておるのじゃからな、奴は」


「……ふむ」


 アカネの言わんとすることはわかる。

 おそらく、神の山にはエレノアもいるのだろう。

 エレノアはエンディオーネの神性を持っているから、それも相俟ってファルトゥールの霧を抑え込んだんだ。


『それを考えるのは後で。今は優先すべきことがある』


「ああ。ネオ・コルトだな」


『そう』


 正直、すぐにでも対応したかったが、アインアッカがこの状態ではそっちまで気が回らなかった。ファルトゥールの濃霧のせいで、精神的にも参っちまってたし。


「実は、セレンに連絡する前にブランドンから一方が届いた。そっちにも行ってるんじゃないか?」


『きてた』


「ひとまずは、快勝って感じか」


『そう。けど、完勝じゃない』


「ああ」


 ブランドンは無事制圧した。

 ネオ・コルトの戦闘員は軒並み降伏したし、組織としてはすでに壊滅状態だ。

 だが、肝心の五星天には逃げられたようだ。


 統領ティエス・フェッティ。

 聖ファナティック教会の教皇。

 クィンスィンの剣豪ムサシ。

 そして、イキール・ガウマン。


 奴らがどこで何をしているかは、まだ掴めていないらしい。ネオ・コルト自体は壊滅したから、すぐに何かできるというわけじゃないだろうけど。

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