第715話 凱歌
〈妙なる祈り〉の力を全開にし、手刀で魔王に対抗する。
光を帯びた俺の両手が、迫りくる斬撃をすべて弾き返した。
「厄介な……! その力、やはり捨て置けません!」
「こっちのセリフなんだよなぁっ!」
漆黒の刀と、光る手刀。
リーチでは向こうが勝っているが、手数ではこっちが勝っている。
実力は完全に拮抗していた。
激戦の中で、一際強烈な打ち合いがあった。それを合図として、俺と魔王は示し合わせたようにお互い距離を取る。
静寂。
周囲の兵士達は俺達の戦いを見て、唖然としていた。
「な、なんだ。あれは。何が起こった?」
「わからねぇ! 何も見えなかった」
「黒いとか、光ってるとか、それくらいしか……理解できなかったぜ……!」
「魔王はわかる……まだ、魔王は分かるけどよ……けど、なんだよあいつ……本当に、人間かよ……!」
外野が何か言っているが、耳には入ってきても理解できるほどの余裕はない。俺は今、目の前の魔王に全集中力を注いでいる。
とりあえず深呼吸。
「アン。お前のその力……どういうことだ。マーテリアの神性を失っても、瘴気が使えるのか」
「あーしは女神の加護を受けている。故に、あーしの力は無限に変化する。女神の思し召しによって」
なるほどな。つまり、神族の権能か。
「神性を失っても瘴気を使えるなんてな。古代人が神族と呼ばれるわけだ」
「ええそうです。あーしこそ女神に愛された、真の人間なのです!」
瞬きする間もなく距離を詰めてきた魔王が、神速の斬撃を繰り出す。
俺はそのすべてを捌き、有るか無いか分からないくらいの隙をついて、反撃を打った。
手刀による打突。
その一撃は魔王の首筋を掠めるに止まったが、勢いを殺すには十分だった。
「クッ……!」
魔王は咄嗟に距離を取ろうとするが、それは許さない。
俺は魔王を追うように前進し、肉薄したままの距離を保った。
「守ったら駄目だぜ。戦いってのはよ」
俺は渾身の頭突きを魔王にお見舞いする。
「最後まで攻めて攻めて攻め抜いた奴が勝つって、相場は決まってんだ!」
魔王が剣を振ろうとするが、今更だ。
前進する俺の方が、何倍も速いのだから。
「うぉおおおッ!」
渾身の手刀振り下ろしが、魔王の額を打ち抜いた。
白い輝きが閃く。
あまりの威力に、魔王は白目を剥いて気を失った。そして、動いていた勢いのまま転がってそのまま動かなくなる。
俺はブーツの底で大地を噛み、砂煙を上げながらブレーキをかけ、立ち止まった。
そして、勝利を誇示するように天高く右手を掲げる。
「魔王アンヘル・カイドは、このロートス・アルバレスが討ち取った!」
ギリギリの戦いでテンションが上がっていたせいか、勇ましい声をあげてしまう。
「あれ?」
俺としては、周囲の兵士が呼応して鬨の声をあげるかと思ったが、予想に反して戦場はやけに静かだった。
辺りを見回してみると、兵士達が遠巻きに俺を見ているだけ。
その顔は、名状しがたい感情を露わにしていた。
「……魔王を、倒した」
「ああ。たった一人でな……」
まさか、あれか。
俺の強さに感動して、言葉を失っているのか。
わはは。まぁ今の俺は俺史上最強だからな。みんなが感動するのも仕方ない。
そう思ってドヤ顔を浮かべていたのだが。
「友よ」
ヒーモが肩を叩いてくる。
「キミにとって、これからが一番つらい戦いになるかもしれないな」
「なに? どういうことだ。魔王は倒しただろ」
「だからこそ、さ」
よくわからん。
ま、一件落着というわけだ。
魔王を倒して、世界は救われた。
そうだろ?
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