第701話 泥仕合
「我らは聖女が魔王を討つまで、モンスター共を引き付け続けなければならない。そして力ある者は聖女と共に魔王と戦うのだ」
「命を捨てる作業だな……」
「もとより生き残るつもりなどない。国家の未来と臣民のために戦い、死ぬことが王の責務ゆえな」
ああ。たしかにこの人はセレンの親父さんだ。
「安心しな。もしあんたが死んでも、その遺志は立派な王女が継いでくれるさ」
「ふっ。だといいが」
「それはそれとして、死なないように力は尽くそうぜ。娘を悲しませる父親にはなりたくないだろ?」
「無論。死なずに済むならそれに越したことはない」
「上等」
話している間にも、戦場ではモンスター達が猛威を振るっている。
グレートセントラルの軍はもはや半分ほどに減っていた。すでに数万の兵士が、散っていったというわけだ。
「ジェルドのノイエ。瘴気に対抗できる力が、超絶神スキルだけでないことは知っているか?」
「ああ。あれだろ、スキルを超えた力。サニー・ピースが言ってたよ。人の持つ意志の力だって。さっきあんたも使ってたな」
そういえば、サニーの奴は何をしているのか。国家の一大事に現れないというのは不自然だ。死んだなんてことはないだろうし。
「サニーを知っているのか。話が早くていい。この軍には、サニーほどではないにしろ、意志の力を手に入れた者達がいる。みな優秀な冒険者達だ。神スキルと意志の力、そのどちらかを使える者を中心に、モンスターを食い止める。他の者はその援護にあたる」
「いいと思う。俺はどうすればいい?」
「私と共に聖女に加勢してもらいたい。キミがどうして瘴気を扱えるかはわからないが、その力は魔王にも通じるだろう」
「……俺が魔王側だと疑わないのか?」
「明君とは、人の本質を知る達人とも言えよう。私は己の見る目を信じるのみ」
テンフにも同じようなことを言われたな。俺ってそんなにわかりやすいのかな?
「わかった。エレノアに加勢を――」
言いかけたところで、俺達のすぐ近くに何か大きなものが降ってきた。大地に墜落したそれは、轟音と砂塵を巻き上げる。
「なんだ……?」
俺は咳き込みながら、落ちてきた物体を確認する。
「……テンフ?」
なんと、エレノアと一緒に魔王と戦っていたはずのテンフが、ボロボロの状態で倒れていた。紛れもなく瀕死だ。鎧は粉々に砕け、全身から鮮血を垂れ流している。四肢があらぬ方向に曲がり、胴体の一部が潰れていた。
「グォ……ぐ……ノイ、エ……殿……!」
「おい喋るなっ。いま治療する!」
俺は慌てて駆け寄り、テンフに医療魔法をかける。
「ファーストエイド!」
俺の手から漏れたほのかな癒しの光が、テンフを照らす。
ところが、まったくと言っていいほど効果がなかった。
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