第664話 そいつはいい
「色々思うところはあるけど……今は目の前の問題を片づけないとだね」
重苦しい雰囲気の指令室に、ルーチェの真面目な声が響く。
「ああ。ルーチェの言う通りだ。エレノアが何を考えているのかは、あいつをどうにかした後に聞けばいい。今はとにかく、どうやってグランオーリスに行くかを考えないとな。マッサ・ニャラブの状況はどうなってる?」
「マッサ・ニャラブ共和国は、依然としてグランオーリスと戦争中なのです。とはいえ、戦況はグランオーリス優勢です。戦いに長けたフルツ族がほぼ壊滅しましたから」
「ああ……」
俺が倒した、あの脳筋か。
「グランオーリスとマッサ・ニャラブの戦線は、膠着状態といったところなのです。グランオーリスの冒険者達が構築した防衛線を、マッサ・ニャラブの軍は越えられないでいるようです」
「へぇ。やるじゃないか。流石は冒険者の国だな」
「でも、手放しで喜んでもいられない」
ルーチェの言葉に、サラも頷く。
どういうことだ。
「マッサ・ニャラブとの戦線に戦力が集中してる分、他の国との戦線が不安定なの」
「まじかよ」
ルーチェは壁に貼り付けられた地図に歩み寄り、棒を持ってグランオーリスを指し示した。
「グランオーリスは、隣接した三つの国すべてから攻撃を受けてる。マッサ・ニャラブ共和国。ハンコー共和国。グレート・セントラル」
「いずれもグランオーリスより国力で優れている」
エカイユの戦士長が補足してくれた。
「そう。その三国から総攻撃を受けて耐えていられるのは、偏にグランオーリスが優秀な冒険者を有しているから。もちろん、政府の戦略が上手いっていうのもあるんだけど」
「優秀な冒険者は、強力な戦力になるでやんすが、見方を変えれば弱点にもなるでやんす」
オーサの言葉に、俺は首を傾げる。
「どういうことだ? 強い戦力があるんだ。長所にはなっても弱点にはならんだろ」
「考えてもみるでやんす。冒険者の戦闘力をあてにするということは、一国の軍事力を代替不可能な個人に依存するということでやんすよ。あまりにも不安定でやんす」
たしかに。言われてみればそんな気もする。
「もし工作を仕掛けられて裏切りでも起ころうものなら、形勢は一気に逆転するでやんす。そうでなくとも、死傷して戦線から離脱なんてことになれば、その穴を埋めるのは至難でやんすよ。現状、その穴をウチからの援軍で補っているでやんすが、それも限界が近いでやんす」
「……やばいな、それは」
なるほどな。
戦線が不安定というのは、そういう意味でもあるのか。
「いい? ロートスくん。戦況の膠着は、ほんの少し力を加えただけで崩れる危ういバランスの上に成り立ってるの。エレノアちゃんが参戦する目的は、その均衡を崩すために間違いない」
「事態は一刻を争うって感じか」
ちょっといない間に、グランオーリスはかなりやばいことになっていたようだ。
時間がもったいない。早く手だてを考えなければ。
「あの……」
しばし沈黙の中、控えめに手を挙げたのはオルタンシアだった。
「自分に考えが……あります」
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