第663話 王の帰還

 独立した亜人の国というものに馴染みがないはずだから、戸惑いも大きいだろうな。


「悪いな。急に寄り道することになって」


「まったくだよ……よりにもよって」


 メイの亜人達を見る目には、不安と恐怖が混じっている。そして、スキルを持たない者に向ける侮蔑の色もあった。

 世界が瘴気に染まり、戦乱に突入しても、スキル至上主義の価値観は根強い。


 ドーパ民国は、反スキル至上主義のヴリキャス帝国の属国だ。しかし宗主国がそうだからと言って、そこに住む人達の思想が、土着のものと大きく変わるわけじゃない。文化的に見れば、ドーパ民国は王国に近いからだ。

 メイだって、スキル至上主義の文化の中で生まれ、育ってきた。そうそう簡単にかわるもんじゃないだろう。


 そういった認識を変えるのも俺の目的だが、今この時に限っては長居は禁物だ。


「ご主人様。その人は?」


「また女の人を連れてきたの?」


 サラが目を丸くし、ルーチェは呆れたように腕を組んだ。


「いや、この人はそういうんじゃなくてだな。ちょいと事情があって、エレノアに会わせなくちゃいけないんだ」


「エレノアちゃんに?」


「ああ。だから、あんまりゆっくりはできない。準備ができ次第、グランオーリスに向かう」


 サラとルーチェは、顔を見合わせた。


「エレノアさんに会いに行くのに、どうしてグランオーリスに行くのですか?」


 首を傾げたサラを見て、俺は得心する。

 エレノアが出陣したことは、まだここには伝わっていないようだ。あらためて、アルバレスの守護隊の有能さを思い知らされる。


「エレノアはグランオーリスに向かってる。他でもない。グランオーリスを攻撃するためにだ」


 場の空気は一転して、驚愕と緊張感に包まれた。


「込み入った話になりそうだから、中で話を聞こっか。ロロ。お客様を客間にご案内して差し上げて」


「お、おうっ」


 メイが俺の袖を引っ張る。


「案内って、亜人の子にかい?」


「俺の故郷には、郷に入っては郷に従えって言葉がある。ここは亜人の国だ。嫌でも辛抱した方がいい」


「……でも」


「心配ないよ。少なくともここには人間だからってメイさんを責めたり蔑ろにする奴はいない」


 そういう心配をするってことは、メイ自身、人間が亜人を虐げてる自覚があるってことだ。


「……わかった」


「まぁ、寛いでてくれ。疲れもたまってるだろうし」


 戸惑うメイをロロに任せ、俺達は指令室に集まることになった。

 メンバーは以下の通り。


 俺。

 サラ。

 ルーチェ。

 オルタンシア。

 そして、エルフの族長オーサと、エカイユの戦士長。


 計六人だ。

 いつもより人数が少ないから、指令室も広く感じるぜ。


「みんな集まったな。実は――」


 ドーパ民国とツカテン市国での出来事。エレノアがグランオーリスに出陣した情報など、俺が体験した一部始終をもれなく伝えていく。

 最後まで聞き終えたみんなは、一様に深刻な面持ちになっていた。

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