第654話 いつの間にか

 フォルティスを駆って北上する。

 三人乗りは流石に大変かと思ったが、フォルティスは名馬だから大丈夫そうだった。

 ノルデン公国との国境はすでに密かな厳戒態勢なので、越境するのは容易じゃない。

 だが、そこは有能な守護隊のおかげで、抜け道を突くことができた。


 国境付近の山中。

 ノルデン公国に入った俺を待っていたのは、見覚えのある守護隊の面々だった。


「主様。よくぞお戻りになられました。すぐさま集えなかった我らの無能をお許しください」


 俺は、跪く五人の美女達の顔を一人一人確認してから、深く頷いた。


「許す。これからもよろしく頼むぞ」


「――御意。ありがたき幸せです」


 喜びに打ち震え、感極まった声だった。昔からそうだが、守護隊のみんなは俺を神のように崇めている。別に嫌な気はしないけど、なんか申し訳なくもなってくるよな。そんな大層な人間じゃないのに。


「ローくんって、偉い人だったんだ」


 目の前の光景を見たメイが驚いていた。

 過大評価だと思うけどなぁ。


「主様。二つ、お伝えしたいことがございます」


 跪く守護隊の一人が深刻そうに口を開く。


「なんだ?」


「聖ファナティック教会に潜り込んでいた王国の間諜が、死にました」


 俺はひと時、言葉を失った。


「……ヒューズが?」


「はい」


「経緯を、聞かせてくれ」


 俺は努めて冷静を装いつつ、拳を握り締めながら呟いた。


「主様が再び世界に認識された時、帝国に衝撃が走りました。皇帝をはじめ、帝国の上層部は皆〈尊き者〉である主様を認識していたものですから。そしてそれは教会も同様です。警戒心を強めた教皇は、独自の情報網を用いて教会に潜り込んだ者を探し始めたのです」


「それで、教皇がヒューズを殺したのか」


「いえ、そうではありません。かの者の擬態は完璧でした。神スキルを用いて、完全に教会に溶け込んでいたのです。いかに教皇と言えども、それを見抜くことできませんでした。それを出来たのは、女神の権能を得た聖女だけだったのです」


「まさか、エレノアがヒューズを?」


「おそらく」


 守護隊の面々はお互いに目を合わせる。


「我らは聖女の守護騎士として、神聖騎士という肩書を与えられていました。しかし、我々がアルバレスの守護隊であることを、聖女は理解していた。もとより我らを信用してはいなかったのでしょう。彼女は我らが手を出すより早く、かの者への対処を終えていました。その後、かの者が姿を消したところを見るに、主様のお考えの通りかと」


 なんてこった。

 エレノアがヒューズを殺しただと?

 今の俺の心境は、言葉で説明できるようなもんじゃない。


「そうか……ここしばらくヒューズからの連絡が途絶えていたのは、そういうわけだったのか」


 あいつはイケメンのくせに、なかなかいい奴だった。

 惜しい男を亡くした。冥福を祈る。

 とはいえ、悔やんでいても仕方ない。気持ちを切り替えるんだ。


「もう一つの報告は?」


「は。現在グランオーリスが周辺諸国と激しい攻防を続けていますが……そこに、聖女が向かっています」


「なに……?」


 グランオーリスにエレノアが向かっているだと。

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