第653話 間断ない問題の嵐じゃん
「ふむ。ダーメンズ子爵家に仕えた、ではなく、嫁いだ、の誤りではないのか?」
「いや、嫁いだってことはないんと思うんだけど」
「その昔、初代ダーメンズ子爵ダーメ・ダーメンズに嫁いだ我が一族の姫がおられての。そのお方のことを言うておるとのかと」
たしかアカネは、初代ダーメンズ子爵の娘だって言ってたような。
「あとは……そうじゃ。その姫に仕えていた腰元のおなごも、幾人か王国についていったようなのじゃ。その内の一人が、ダーメンズ子爵家の養女になったという記録が残っておる。姫でないとすれば、そちらかもしれんの」
「ややこしいな」
「クィンスィンとダーメンズ子爵家との繋がりは、それくらいしかないからのぅ。その二人のうちのどちらか、あるいはその縁の者か」
「それってどれくらい前の話なんだ?」
「およそ二百年くらい前じゃ。そのおなごが、どうかしたかの?」
「いや……」
ちょっと気になっただけだ。
アカネの正体というか、過去というか。
元の世界に戻っていた二年間。アカネはずっと俺の傍で支えてくれたからな。それなのに、俺の中でアカネはずっと謎の存在のままだ。
まぁ、考えても仕方ない。いずれアカネの口から教えてもらえる日が来るだろう。
「じゃあ、そろそろお暇することにするわ。もともと帝国に向かう途中だったんだし、長く足止めを食らっているわけにもいかないしな」
俺はゆっくりと立ち上がる。
「主様。お待ちください」
そんな俺を制止したのは、レオンティーナだった。
「どうした?」
「ノルデン公国にいる守護隊のメンバーから、連絡が入りました。どうやら、公国軍がこの国に侵攻しようとしているようです」
「え、まじ?」
その瞬間、部屋にただならぬ緊張感が生まれた。
ジョッシュとティエスが目配せをし、ムサシはかっと目を見開く。
「謀反が知られたかの」
「おそらく」
「敵も間抜けではないでござるな」
なるほど。
クィンスィンが独立計画を立てていることを知った帝国が、ノルデン公国を差し向けたって感じか。
今はエルゲンバッハが引き起こした暴動のせいでかなりピリピリしているだろうし、面倒なことになる前に先手を打って攻め入る決断をしたのだろう。
「早ければ今夜中に奇襲を仕掛けてくるとのことです。主様、いかがされますか?」
「そうだな……」
どうしたものか。
これからノルデン公国に向かうつもりだったのに、どうしてこう複雑な状況になってしまうのか。できるだけ早く帝国に行くためには、戦闘をすり抜けるのが得策ではあるが。
「ロートスさん。構いません」
俺が何か言う前に、ティエスが口を開いた。
「これは私達の戦いです。親コルト派に加入しないのならば、あなたは無関係な人間。これ以上関わる必要はありません」
「そうじゃな。いずれ帝国とは刃を交えなければいけないのじゃ。それが若干早まっただけのこと。うぬが気にすることではないわ」
たしかに二人の言う通りだ。
とはいえ、これから戦争が始まるってのに、知らんふりするってのも後味が悪いような気もする。
俺はこの場の一同を見回す。
正直、この面子がいれば簡単に負けるということはないだろう。個人的には、アカネの出身であるクィンスィンの民に勝ってほしいという思いはあるので、気持ち的に肩入れしてしまうのも仕方ない。
「ロートス殿。おぬしの心中は理解できるでござるよ。しかし、なんでもかんでも首を突っ込めばいいというものでもあるまいでござる。おぬしにはおぬしの戦いがあるでござろう? ノルデンが攻めてくるという情報を得られただけでも、ありがたいでござるよ」
「まぁな」
ムサシの言うことも一理あるな。
「わかった。だけど、メイさんは連れて行っても構わないな?」
「もちろんです」
ティエスは頷く。
「彼女を救ってあげてください」
「ああ」
メイは立ち上がると、俺に深々と頭を下げた。
「迷惑をかけてごめん。これから、お世話になるね」
「おっけぃ」
そういうわけで、俺とレオンティーナは、メイを加えてこの国を出ることになった。
一悶着あったが、無事に済んでよかったわ。これで今後、ドーパ民国の問題も解決するだろう。
一件落着。そして、一難去ってまた一難。
完全に、そういうことだ。
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