第645話 変態揃い踏み
光が収まった後。
広間には、大の字で倒れるムサシと折れた刀。
そして、勝者の佇まいを見せる俺の姿があった。
「強かった。わりと」
その呟きに応えるように、レオンティーナが傍に現れる。
「主様。見事な戦いでございました」
「ああ。あと三歩くらい間違えてたら、俺が負けてたかもな」
「ご謙遜を」
レオンティーナは気を失ったムサシのもとに近づいていく。
「魅了の浄化を行います」
「どれくらいかかる?」
「数分もあれば」
「わかった」
俺は剣を納め、両手を払う。
「俺はメイさんを追う。ムサシのことは任せたぞ」
「御意。お任せください」
一時はどうなることかと思ったが、大丈夫そうだな。
早いところメイさんを捕まえて、親コルト派の連中を止めないと。女神をどうにかする前に、戦争で世界が終わっちまうぜ。
「うう……」
俺が広間を去ろうとした時、ムサシの呻きが聞こえてきた。
「ロー……トス、殿……」
絞り出すような擦れた声。
「拙者……拙者は……」
こんなすぐに目を覚ましたのはすごいが、流石に動ける状態ではないようだ。
レオンティーナが、両手から白い輝きを放ち、ムサシの魅了を浄化していく。
「まこと……拙者は、童貞では……ござらん」
俺は振り返らない。
この期に及んで何を言っているんだ。
「ムサシ。それを決めるのはあんたじゃない」
歩みを進め、広間を去っていく。
「勝負に勝った、この俺だ」
ムサシの苦しげな声が背中に届く。
まだ何か言いたいようだが、聞くに及ばない。いくら否定しようとも、恥の上塗りになるだけだ。
ムサシの名誉の為にも、俺は否定の言葉を聞かないことにした。
あいつは童貞だ。誰が何と言おうと。
俺は、ムサシが童貞であることを信じる。
それはともかく。
俺はイーグレット・キャッスルを上っていく。
狭く急な階段をいくつか上った先、辿り着いたのは大天守の最上階であった。
だいたい三十畳ほどだろうか。
畳の敷かれた間は、四方の窓が開き、開放的な空間になっている。
俺を迎えたのは、三人の人物だった。
間の中央に座る幼げな少女。十二、三歳くらいのおかっぱ頭の少女である。
彼女の両斜め前に、距離を空けて向かい合って座る男女二人。
見知らぬ男と、メイだった。
「おう。ようやく参ったか。待ちくたびれたぞ。乱波者」
中央に座る少女が、片膝を立ててお猪口の酒を呷る。
「キミは……?」
「わしか」
大股を開いてふんどし丸見えの少女は、紅潮した頬でメイを見やる。
それに促され、メイが口を開いた。
「こちらはイーグレット・キャッスルの城主。ジョッシュ殿」
なんだって。
ムサシが言っていたジョッシュって、こんな小さい女の子だったのかよ。同じ釜の飯を食ったって言っていたから、おっさんだとばかり思っていた。
「そして」
メイが向かいに座る男に目を向ける。
「こちらが親コルト派の統領。ティエス・フェッティ」
「ども」
男は無表情で俺に会釈をした。
小太りの、なんだか覇気のない中年男だ。顔は脂ぎっているし、服装も安っぽいシンプルな感じだ。こんな奴が親コルト派のトップなのか。
「お前が、親コルト派の」
敵意を露わにした俺を、ジョッシュが手で制す。
「まぁ待て。言いたいことは山ほどもあるであろうが、まずは頭を冷やし座すがよい」
いいながら、正面に座布団を投げてよこす。
「なに?」
「どうじゃ? 美味い酒もある」
「どういうつもりだ」
「座らんと落ち着いて話もできんじゃろうが。ほれ、早う座らんか。〈尊き者〉よ」
俺をその二つ名で呼ぶってことは、世界の裏事情を知ってるってことか。
仕方ない。
ジョッシュが見せる丸出しのふんどしに免じて、俺はしぶしぶ座布団の上に腰を下ろした。
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