第578話 ローシュツ・アルバレス

 よくわからないゴチャゴチャした機械がたくさん並んでいる薄暗い部屋。

 それがウィッキーの研究室だった。


「悪いっすね。こんなところで。応接室は倉庫になってるんすよ」


「気にしない」


「ありがたいっす」


 俺とアイリスは隅っこにあるソファに腰掛ける。

 ウィッキーはデスクへとついた。


「どこから話をしたらいい?」


「そっすねー。どうしてあんたとアイリスが、王女と一緒にここに来たのか。ってところからっすか」


 ふむ。

 たしかにそこは疑問に思うところか。


 俺は今までの経緯をざっくりと説明する。

 神の山を目指してグランオーリスに入ったところ、セレンが襲われているところに出くわしたこと。

 騎士団が崩壊し、護衛としてセレンについてきたこと。

 そして、これからセレンを連れて神の山に赴くことと、その理由。


「なるほどなるほど。だいたい理解したっす」


「話がはやいな」


「まぁ、あんたの事情についてはサラや先輩から聞いてるっすからねー。まさかここに来るとは思ってなかったすけど」


「俺も、まさかこんなところにお前がいるとは驚きだ。アイリスは知ってたのか?」


「いいえ。わたくしも存じ上げませんでしたわ。ウィッキーの居場所は、サラちゃんとアデライト先生だけが知っていたのでしょう。おそらく、意図的に隠されていたのでは?」


「正解っすー。ま、いつまでも先輩に匿ってもらうわけにもいかなかったっす。今の王国は、亜人が暮らすには大変すぎるっすから」


 たしかに、アデライト先生みたいに姿を変えられるなら別なんだけどな。


「それで、セレンの伝手でこの街に?」


「そういうことっす。やー、あの子がこの国の王女様で助かったすよ。学園で魔法を教えた縁が、こんなところに繋がるなんて、人生は不思議っす」


 俺のおかげだな。

 セレンにウィッキーを紹介したのは俺だから。

 完全に、俺のおかげだ。


「ところでロートス。ひとつ頼みがあるんすけど、聞いてくれるっすか?」


「ん? なんだ?」


「あんたの身体を、調べさせてほしいっす」


「パンツを脱げってことか?」


「なんで下半身限定なんすか。ちょっ、脱がなくていいっすからっ!」


 ズボンをパンツごとずり下げようとした俺に、ウィッキーの荒い声が降りかかった。

 顔を背け、突き出した両手をバタバタさせるウィッキー。


「ジョークだよ。ロートス・ジョークだ」


「そんなジョークいらないっすよまったく」


 いやはや。


「そんで? 調べるってのは、瘴気のなんやかんやか?」


「あー……そうっす。瘴気に侵されながら普通に生きていられるって、稀有な例なんすよ。いや、稀有っていうより初めてのケースっすね」


「時間のかかることだったらあれだけどな」


「そこまで時間は取らせないっす。一日程度あれば」


 ふむ。どうしたものか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る