第512話 主人公がかっこいい

 なんて言うと思ったか?

 そんなわけあるかよ。


 俺は転がった瓦礫を持ち上げると、それを上空のエンペラードラゴンにぶん投げた。

 亜音速で発射された瓦礫は、見事命中。一匹のエンペラードラゴンが肉片になって消滅した。

 残りのエンペラードラゴン達が俺に注目した。その目は黒く染まっており、瘴気に侵されていることがわかる。


「悪いけど、虐殺を見逃せるほど達観してねぇんだわ」


 帝国は嫌いだ。

 だが帝国民が嫌いなわけじゃない。

 だから守るぜ。俺にはその力がある。


「いくぞ」


 俺の右腕からは黒いオーラが噴き上がっていた。

 エンペラードラゴンのブレス。その集中砲火が俺に放たれる。


「しゃらくせぇ」


 九条の光線が束ねられ、尋常でない威力になったそれを、俺は右ストレートを打つことで相殺。右腕から発生した瘴気が、光のブレスを呑み込みかき消した。

 右腕から胴体まで激痛が走った。呪いが進行している。


 俺は膝を着きたい衝動に耐え、周囲の瓦礫を投げまわる。

 一つ一つが必中の砲弾となって、一分も経たずエンペラードラゴンは残り一匹になった。奴らにはろくに反撃をする隙さえ与えなかった。


 だがそうしている間にも、ブラッキーの波状攻撃が都市の城壁を粉砕している。このままじゃすぐにでも都市に進入されてしまうだろう。

 いや。

 改めて見てみると、すでに足の速いブラッキーが都市内部に入り込んでいる。


「まじかよ」


 接近してきた最後のエンペラードラゴンを蹴り殺し、俺はボロボロになった発着場から都市に駆け下りる。

 崩れた街並。

 舗装路は砕け、建物の瓦礫がそこかしこに散らばって道を塞いでいる。


 無残な市民の死体がいくつも転がっていた。母の亡骸にすがりつく幼子や、脚を失った我が子を背負い必死に逃げる親の姿も見えた。華奢な手を握って走る青年は、それがもう腕しか残っていないことに気付いているのだろうか。


 ひどい有様だ。

 帝国の兵士達がライフルやバズーカを手に応戦しているが、苦戦は否めない。そもそも数で押されている。

 くそ。とにかく数を減らすんだ。


 俺は大型トラックほどもあるブラッキーを、一つずつ駆逐していく。瘴気をまとった拳なら、戦車くらい一撃で木っ端微塵にできる。街を駆け回りながら、戦車にパンチをいれていく。

 それでも一向に数は減らない。進撃してくる数の方が圧倒的に多い。


「きりがねぇ……!」


 〈妙なる祈り〉があれば、こんな奴ら物の数じゃないってのに。


「だめだ! ここはもう持たない!」


「撤退命令はまだこないのか!」


「司令部から応答がない!」


「まさか、やられたんじゃ……!」


 兵士達の声が聞こえてくる。

 白いボディアーマーに身を包んだ帝国兵は必死に民を守ろうとしている。

 彼ら数人の小隊の前に、ブラッキーが履帯を唸らせて突貫してくる。砲口は彼らに向いていた。


「市民が避難する時間すら稼げないのか……!」


「無念だ……」


 武器を下ろした兵士達に、ブラッキーの主砲が発射される。

 万事休すだ。

 だが、兵士達が吹き飛ばされるより早く、立ち塞がった俺が右手で砲弾を受け止めた。

 手と砲弾との衝突点から、黒煙のような瘴気が爆ぜる。


「な……!」


「砲弾を、手で?」


 唖然とする兵士達。


「諦めるな」


 その一言を絞り出すのが、俺の精一杯だった。

 呪いはすでに胴体を侵し、左上腕にまで達している。首筋にも、呪いの痣が広がってきた。


 俺はついに膝をつく。

 息は絶え絶えだった。

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