第500話 推し

 というわけで王都リッバンループにやってきた。

 今の俺の脚なら、一夜にして辿り着ける距離だ。といっても、身体強化の魔法をかけて夜通し全力疾走を続けていたので、流石に疲れてしまった。

 魔力も枯渇したし、体力もかなり消耗してしまっている。

 回復には休憩が必要だが、そんなことをしている暇もない。


 朝を迎えた王都。真っ先に向かったのは魔法学園だ。

 俺だということがバレるといけないので、フードで顔を隠している。これで俺だということはバレないだろう。そうに違いない。


 さぁ、目指すはアデライト先生のところだ。

 俺は本棟の職員室を目指す。そこに行けばいるだろう。教頭に出くわさないようにしないといけないけど。

 ささっと移動しながら、俺は目的地に辿り着く。

 廊下から職員室を覗き込むが、アデライト先生らしき人は見当たらない。授業中だろうか。


「キミ。何か用かね」


 背後から声をかけられる。

 やばい。これは、教頭の声だ。


「ええ。アデライト先生を探しに」


 声色を変えて、振り返らずに答える。


「アデライト先生は、この時間なら研究室にいるのではないかな。授業の準備をしている頃合いだろう」


 ああ。そうか。確かにこんな朝早くから授業はやってないか。俺としたことが、しばらく離れているうちに時間割も忘れてしまったようだ。


「ありがとーございまーす」


 俺はそれだけ言って、そそくさとその場を離れる。

 しかし。


「ん? キミ、ちょっと待ちたまえ」


 呼び止められてしまった。

 やばい。バレたか?

 教頭は俺に近づいてくる。


「なんでしょーか」


「アデライト先生のところに行くなら、ついでに伝言を頼みたい。呪いの件、ゆめゆめ忘れぬようにと」


 俺のことかな。


「わかりまーした」


「頼むぞ」


 そう言って、教頭は職員室へと入っていった。

 ひやひやさせるぜ。まったくよぉ。

 危うく殴るところだったぜ。


 つーわけで、俺はアデライト先生の研究室を訪れることとなった。

 ノックをする。


「在室していますよ。どうぞ」


 部屋の中から先生の声が聞こえてきた。

 それだけで俺の心は癒される。


「失礼します」


 入室した俺を見て、アデライト先生は目を丸くした。


「あなた……ロートスさん」


 慌てたように駆け寄ってくると、俺の手を引いて中に招き入れる。そして、すぐに施錠した。


「誰かに見つかったりしていませんか?」


「大丈夫だと思います。たぶん」


 先生は形の良い巨乳を撫でおろす。


「すみません、急に来てしまって」


「いいえ。私もちょうど、ロートスさんに会いたかったところです」


「え? どういうことですか?」


「立ち話もなんです。どうぞ座ってください。ゆっくりお話しましょう? 午前の授業は休講にします」


 大人びた笑みを浮かべた先生は、俺を部屋の椅子に座るように促した。

 なんだか、嬉しそうだな。

 なにかあったのだろうか。

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