第499話 一時の別離
その日の夜。
最後の情事を終えた俺は、ベッドに寝そべってぼーっと天井を見上げていた。
右隣ではオーサが、左隣では副長が、二人して寝息を立てている。
オーサの提案で三人でまぐわうことになったのは、僥倖というほかない。いやいや何が僥倖だ。とんでもないことを言うな。
ともかく依頼を果たした俺は、百人連続斬りをした後だというのに元気だった。体力には自信があるから、それくらいじゃ疲れないのだ。
扉が開く音。家に誰かがやってきたようだ。
「終わりましたか?」
アイリスの声だ。
「おう。今しがたな」
「お疲れさまですわ。大変なお役目だったでしょう」
「それほどでもないさ」
俺はベッドから出て、服を着る。
「アイリス。エルフのみんなを頼めるか。連邦に入る手段がないだろ。お前の力で送ってやってほしい」
「構いませんが、マスターはどうなさるのです?」
「俺は帝国に行く」
「今からですか? 彼女達が起きるのを待たず?」
「ああ。時間が惜しいからな。他に気になることは山ほどあるが、ひとまず今はエレノアが最優先だ」
「わかりましたわ」
エルフ達なら大丈夫だと思う。俺は約束を果たした。明日になればオーサ達は連邦に着くはずだ。
「じゃあな。頼むぞ、アイリス。何かあれば念話灯で連絡する」
「はい。お気をつけて。エルフの皆様を送り届けたら、わたくしもすぐに後を追いますわ」
「来てくれるのか?」
アイリスはまだ記憶を取り戻していない。俺のことをマスターを呼ぶのは、なにかしら心境に変化があったからだろうが、根本的には変わっていないと思う。
「マスターと共にいれば、わたくしにも真実が見えてくるかもしれませんから。サラちゃんやメイド長だけ知っているのは、ずるいですわ」
「はは。違いない」
アイリスのやつ。今度はずるいと来たか。
なんだか、どんどん人間っぽくなっている気がするな。
「わかった。けど無理はするな。サラに助けが必要なら俺のところには来なくていいし」
「サラちゃんなら、きっと行けと言いますわ」
「……たしかに」
こりゃ一本取られたな。
「なら、向こうで待ってる」
「ええ。しばしのお別れですわね」
「ああ。またな」
「はい」
小さく手を振るアイリスに別れを告げて、俺はオーサの家を後にした。
さて、久々の一人旅か。
気張って行こうぜ。エレノアの身に何が起きているのか。しっかり調べないといけないからな。
まずは、ヴリキャス帝国にいく手段を探さないと。
まぁ、一応心当たりはあるんだが。
どうなるものかな。
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