第490話 一騎討ちってやる意味あるん?

 直後、イキールの背中が爆発。


「なにッ!」


 背後から飛来した無数のフレイムボルトが、立て続けにイキールを襲っていた。

 咄嗟に反転し、剣で打ち払うが、すでに何発かいいのを貰ったようだ。

 残念なことに、イキールは俺に対して無防備な背中を晒してしまっている。


「えいっ」


 俺はイキールの後頭部に、思い切り剣を叩きつけた。

 鈍い音が鳴り響く。

 兜の上から強い衝撃を喰らって倒れこむイキール。ごろごろと受け身を取り、すかさず俺に向き直って剣を構える。

 だが、結構ふらついている。


「『無職』だと思って油断したか? 職がなくても魔法は使えるんだぜ」


 今まで使っていなかったが、コッホ城塞でのっぺらぼうの少女に教えてもらったのは剣だけじゃない。実は魔法もそれなりに教えてもらっていたのだ。


「貴様……どうやって背後から」


「転移発動っていってな。自分から離れた場所で魔法を構築できるんだよ。それ以外はただのフレイムボルト・レインストームだ。結構痛かっただろ?」


「魔法を、離れた場所で発動させるだと……? まさか、そんなことが……」


 普通はそんなことはできない。というか、理論はあっても具体的な方法が確立されていない。魔法学園でも研究中の技術だろう。

 俺はのっぺらぼうの少女に教えてもらったけどな。ほんと、あの子は何者なんだろう。マシなんとかが創り出したとか言ってたけど。

 それはさておき。


「実戦で転移発動を使ったのは世界で俺がはじめてなんじゃないか? はは、歴史に名を刻んだぜ」


「何を得意そうに。俗物が」


 イキールの鎧には耐魔法の防護が施されているだろう。それでも背後から直撃を喰らってただで済むはずがない。


「さて、終わらせるか」


 俺の手の上に、バスケットボール大の炎の球が生まれる。


「フレイムボルト」


 発射。

 ふらふらのイキールは、なんとかそれを打ち払おうとする。そんな状態で俺の魔法を防げるのかな。

 しかし、そこはやはり剣聖。俺のフレイムボルトはイキールの剣によって軌道を変えられ、上に飛ばされた。

 だが既に、俺はイキールの間合いに踏み込んでいる。


「わりぃな。殴るぜ」


「舐めるな!」


 俺が剣を振り下ろす。イキールが剣を振り上げる。

 刃と刃が激しくぶつかり合い、甲高い金属音が響いた。

 俺の剣が、高く弾き飛ばされる。

 兵士達が歓声をあげた。


「閣下の勝ちだ!」


 んなこたない。


「お前の敗因は――」


 俺が握るのは拳。


「――スキルを過信したことだわ」


 渾身の右ストレートを、イキールの顔面に叩き込んだ。

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